2011/11/04

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れの3

それから「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」。
この料理、「芥菜/カラシ菜」も「腊肉/塩漬けにして燻した豚のばら肉」の、いずれとも主役。野菜料理でもあり肉料理でもあります。なんて言うより、惣菜の一品。なんてところが嬉しい!
「芥菜」、日本で一般的なのは葉は広くて軸や根元の茎は細めのもの。油炒めなんかでも調理されますが、むしろ漬物や常備菜の素材としておなじみ。
ちなみにタカ菜はその親戚です。
今回の「芥菜」、画像でも明らかなように「包芯芥菜」。もとは中国の野菜で、色は浅緑。葉はぴりっと辛くてほろ苦いのと、根本の茎の部分が幅広なのが特徴。根本の茎の部分が幅広でセロリ状になった部分は「芥胆」ってことで葉の部分を切り落としてその部分だけを料理の素材にしたりします。春先から夏前にかけてがその旬だったはず。もうひとつの旬がこれから、のはずです。

そして「腊肉」。塩漬けの豚肉を燻したもので、赤坂璃宮は自家製だそうです。早い話がベーコンなんですが、日本で一般に知られ、売られているベーコンとは味の濃さや風味は異なります。
というのも日本で一般に知られ、売られているベーコンは工場生産により味なども日本人の嗜好にあわせて変えられ、多くは添加物、化学調味料を加味し、実際に燻すのではなく、燻液につけるだけなんてことで製品化されたもの。

ベーコンを自分で作ってみればその違いが明確にわかります。塩漬け加減も、燻し加減も、好みのままに作れますし、市販のベーコンとは全く異なる味、風味になるのは確かです。
実は「腊肉」こそベーコン本来の姿、とされるのにも大いに納得。しっかりした塩味、その味の濃さ。燻されて独特の風味のついた脂の甘さと旨味。
なんて言っても、香港、中国本土で市販化されてる「腊肉」は、焼き物専門店の自家製とは違って工場生産のそれですから、要注意。ですが、欧米などのベーコンに比べて味、風味が異なります。素材の質、それに燻す際や燻液が異なるからでしょうか。

「腊肉」は焼き物専門店や(製品化されたそれが)スーパーで売られていますが、秋も深まる頃に新しいものが出回りはじめます。冬の季節を迎える前に、豚を潰して備蓄する習慣があるからです。豚肉に限らず家鴨なども潰して塩漬けにしてそのままを干し、内蔵類は腸詰にします。

中国系の腸詰、といえば日本では豚肉の腸詰の「臘腸」が、特に台湾料理の店の定番的なメニューになっています。が、実は腸詰の種類は豊富。家鴨の血も含めた内蔵を材料にした「潤腸」がそれで、これまたその種類は豊富。鵞鳥のローストで有名な中環の「鏞記」では、もちろん鵞鳥を素材にしたそれを売ってます。

話戻して、この「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」、早い話がほうれん草とベーコンの炒め物を思い浮かべてもらえばいいっか。でも、ないなあ!
なんて思うのは、まず「芥菜」、ひりっとした辛味がそこはかとなくあって、ほろ苦い。

それに「腊肉」、日本の市販のベーコンなんかに比べてしっかり火を通してある関係か身は締まっていて固い。塩味もしっかりで味が濃い。おまけに脂身の部分、触感こりこり。ぷりぷり感もあるとこなんか、かつての昔の鯨のベーコンを思い出す。ほら、最近の鯨のベーコンに妙に柔らかい感じで。なんでもかんでも柔らかいのが良いとは限らないのに……

おまけに脂身、甘味、旨味だけじゃなくって、独特のくせと風味がある。実はこの「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」、家庭でも作られるごく一般的な惣菜でもあります。

「この塩味の感じからすると、ビールって感じだね」
「一緒に青菜も食べられる」「おかずにもいいんじゃないですか?ご飯が進みそうな肉野菜炒め!」
「でも、豚の生肉じゃ、この味、旨味、風味、でないじゃない?塩漬け豚を作って常備してたりするんだけど、日増しに旨味を増していく。醗酵系の旨味ね。それもあるんじゃないの」
ひり辛の「芥菜」と冬間近ってことを教えてくれる「腊肉」が秋を物語る一品でした。