2010/12/27

師走の2

そして、大物どころのコンサートをいくつか紹介。
まずは人見記念講堂での井上陽水。バックはキーボード二人にギターという構成で、ベース、ドラムスの参加はなし。う~ん、これまでにもバックの構成を色々模索、実践という経歴のある井上陽水。ですが、リズムの要になるはずのベース、ドレムレスというのはなんとも意外。狙いは浮遊するようなアンサンブルだったんでしょうか。

ところが、開幕しばらくPAの按配が悪くって、一体どうしたの?と慌てふためきます。ですが、弾き語りからあたりから調子を取り戻し、あの朗々としていて妖しい魔力を秘めた歌声を堪能。新作『魔力』が抜群に素晴らしくって、面白くって、楽しみにでかけたんですが、いまひとつ盛り上がれず。

それから竹内まりやの10年ぶりのコンサート。ウェストがしっかり締まったすらっとした長身の細身姿もさることながら、喉、声の強さや声量、細やかな表現にぞくっと身震いするような表情の豊かさに圧倒されました。

日頃は主婦業に専念し、その合間をみつけて作詞、作曲活動、という彼女ですが、何よりも彼女の歌、歌声が魅力的。カラオケ歌って鍛えてます、なんてのではなくてストイックに歌を追求、なんて日頃の隠れたる努力や鍛錬、心がけがなければあの歌声はありえない!と思いました。

そして、今年は『夜会』がお休みの中島みゆきは全国巡演のコンサート・ツアー。その選曲がなかなか憎い!新作『真夜中の動物園』も素晴らしかったですが、歳をとればとるほど歌に深みがましていく、なんてのを目の当たりにしました。

そうそう、幕開け早々、聞こえてきたドラムスに耳をとられました。その音、まぎれもなくジム・ケルトナーのそれ。「え!どこどこ?」と思わず目を凝らしたら、なんとドラムスは島ちゃんこと島村英二。スネアのスナップのちょいルーズな感じ、ロール、フィルインの深いニュアンス、キックのずしりとくる深さと重み。ジム・ケルトナーじゃなくって、島ちゃんそのものでした。

残念ながらムーンライダーズやあがた森魚のステージは見られずじまい。
ですが、来年1月発売される鈴木慶一とムーンライダーズの『火の玉ボーイ』の最新リマスタリング作とあがた森魚の『俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け』の解説を執筆。ことにあがた森魚の新作、めちゃお気に入りです。

師走の1

ども、ごぶさたでした!今年も残すところあと57日。なんてことではぽっかり穴が開いたままになってる『赤坂璃宮』銀座店の7月から11月の月例報告、年明けになってしまいそう。その前に今月のを早いうちに報告いたします。

ところで、私といえば実は11月半ば過ぎからとっくに師走モード。今年も芸術祭の審査員を担当しましたが、審査会を終わってすぐさまコンサート通いが復活。毎年、年末になるとコンサート・ラッシュです。おまけに雑誌はじめ諸々の今年1年間を振り返る企画に加えて、来年早々の正月特番やら1月発売の再発企画の手伝いなどもあって師走を通り越して新年モード。

さて、コンサート。まずは久々にヴァン・ダイク・パークスとの再会が実現。『De La FANTASIA 2010』でのことでした。細野晴臣グループ、高橋ユキヒロ率いるTYTYT、クレア&リーズンなどなど参加のオムニバス・コンサート。楽しみは噂のトクマル・シューゴ。色々楽器を持ち替えたりするトイ・オーケストラ的趣きのバンドを従え、エレキ・ギターの弾き語り。

ですが、定評あるはずのギター、椅子に座ってギターの手元を見ながらの演奏で、なんだかリズムが落ち着かないままま一気呵成に弾きまくり。カレイドスコープ風に音像世界が広がり、つぶやくような歌と独特の歌詞世界、なんていうアルバムとは違ってライヴ仕立て。

ですが、ライヴ・ハウス・サイズの演奏で、内にこもって小ぢんまりのまま、歌と演奏のアプローチ、ホールの隅っこまでは届かないし、客席に飛び込むような感じもなし。それにしてもどうして椅子に座って弾くのか疑問。なんてこと、バック・ステージで当人にも尋ねました。

高橋ユキヒロ率いるTYTYTは高橋幸宏、宮内優里、高野寛、権藤知彦というスペシャル・ユニット。私好みのエレクトロニカ。ギターをサンプリングしてギターを足していく宮内優理と伸び伸びと歌う高野寛が光ってました。細野グループには鈴木茂も参加。今の気分そのままというオヤジならではの味わいが地味で滋味深い。高田漣君のマンドリンも「わ、すげ、やる!」なんて感じで、当人の思惑はさておきヤンク・レイチェルを思い出したりして。

面白かったのは細野グループの演奏のシャッフルのニュアンス。踏ん張りのある重さよりもハーフ・シャッフぽい軽さがあって、そこんとこ今風。若いメンバーのノリ、グルーヴを生かしたもの。あとで高田漣君に「あれって、なんで?」と尋ねたら「細野さんの好みなんです」なんて話に、ナルホド。昔そのままじゃなくって今風に、という訳ですね。

それから、今、私が注目のグループ、クレア&リーズンズ。話題のブルックリンからで「チェンバー・ポップス」なんてことだけど流行遅れのオヤジ(私ですけど)は「何、それ?」って感じですから、始末に終えません。フォーキーな要素にヴァイオリン、チェロによるクラシック的な要素をブレンド。ボヘミアン的な素朴さもありますが、とてもエレガントで知的。

ハイ・インテレクチュアル・ミュージックという感じです。それにどこかイギリス(かぶれ)風なんてもの興味をそそる。ウェスト・コーストでは絶対にありえないグループ。絶対的にイースト・コースト、それも《ザ・シティ》や《ニュー・イングランド》っぽい感じ「うん、その通りかも!」とクレアも言ってました。

そして、ヴァン・ダイク。「ジャンプ」に始まり「オポチュニティー・フォー・トゥ」やら「カム・アロング」に続いて「オレンジ・クレイ・アート」が!「F・D・R・イン・トリニダード」なんてのも。それに「英雄と悪漢」。さらにはかの名盤『ソング・サイクル』からの「ジ・アッティック」。アンコールが「オール・ゴールデン」というマニア泣かせのセット・リスト。

歳はとりましたが歌もピアノも実にパワフル。以前にもましてパワフル。それに、今回最大の収穫はクレアを除くリーズンズの3人のヴァイオリン、チェロ、ベースによるアンサンブルの素晴らしさ。ストリングスが命、というヴァン・ダイクはこれまでの来日公演の度、それを実践すべく日本でストリングスを調達。 ですけど、日本で調達したストリングスの《ノリ》というか《グルーヴ》はなんだかいまひとつ。

そんな問題をクレアの亭主のオリヴィア、チェロのジョン、ベースのボブのたった3人でカバー。ヴァン・ダイクが求めるストリングスでグルーヴ!を見事具現化、というスリリングな演奏、サウンド展開が絶妙でした。画像はヴァン・ダイクとトクマル君の記念写真を盗み撮り。

2010/11/13

「赤坂璃宮」銀座店記憶メモの1~真夏間近~10年6月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 締めくくりの面・飯、今回は「欖角牛炒飯/オリーブと牛挽き肉のチャーハン」。 これが絶品!旨味しっかり、風味絶妙、見事なまでに美味なる炒飯でした。
 「欖角」というのは通称チャイニーズ・オリーヴ、厳密にはオリーブとは種類の異なる「橄欖」の実の果肉を塩漬けにしたもの。
 「欖角」は魚や豚肉などの蒸し物、煮込み物にも使います。漬物のようにひねた味がするもので、ほのかに渋味、えぐ味があるのと、噛み応えのある触感なのがその特徴。それを牛挽き肉とともに炒め合わせて作った炒飯です。
 そういえば牛挽き肉の炒飯、ホテル内の広東料理店でたまに見かけることがありますが、街中の中国料理店ではなかなかおめにかかれない。あっても、牛挽き肉とレタスの炒飯、ぐらいじゃないでしょうか。思い出したのが尾山台にある「華門」の牛挽き肉とレタスの炒飯。随分とご無沙汰してますが、忘れ難い美味です。ご店主はホテルの料理店の出身で、料理は緻密で丹念。久々にでかけてみようかしらん。
 話戻って、「欖角牛炒飯/オリーブと牛挽き肉のチャーハン」。
 香港で食べる牛挽き肉の炒飯は、牛肉の肉質、味も違い、牛肉そのものに特有のくせがあるせいか、今回のような「欖角」や漬物と一緒に炒め合わせ、なんてことが多いようです。
 日本の牛肉も、ご存知の通り特徴とくせがある。肉質は柔らかいものの、脂肪過多気味でその脂肪こそがくせの元。そんなこともあって「欖角」との組み合わせ、相性は抜群。「欖角」の塩味、ひね味が、牛肉の脂分、くせをかき消すとともに、旨味と風味を加味。
 むろん、それだけではありません。鍋、つまりは火の扱い、油の使い方、素早い炒め方の技、あってのもの。旨味たっぷりの味の良さだけでなく、風味、馥郁とした香りの素晴らしさたるや圧倒的。パンチの利いたメリハリのある味付け、さらには「鑊氣/鍋の気」溢れる勢いに打ちのめされました。
 一期一会ではないですが、出会った料理はその時限りのもの、なんてことから、あの美味をもう一度なんてことにはそう執着しない私ですが、この「欖角牛炒飯/オリーブと牛挽き肉のチャーハン」は別格。もっぺんすぐさま食べたい!なんて思ったほど。その内、リクエストすることにします。

 そしてデザートは緑豆の汁粉仕立ての「緑豆爽」。

 本来は冷製ですが、頼み込んで温めたバージョンをリクエスト。
 ニッキと生姜入りで、素朴でひなびた甘味が、ほのぼのとした気分にさせてくれます。
 その登場を待つまでに現れた今月の懐舊点心は「蓮香皮蛋酥」。
 オーブンで焼かれた皮はさくさくと触感。ピータンの独特のクセのある味、風味がなかなかに滋味豊かで味わい深い。その昔、昼になれば飲茶の点心目当てにあっちこっちの料理店をはしごした頃のことを思い出します。
 昔懐かしい点心を再現してみせてくれる点心料理長の久保田さんの存在は貴重です。

「赤坂璃宮」銀座店記憶メモの1~真夏間近~10年6月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして「茄汁天使蝦/天使海老のトマト風味煮込み」。

「天使海老」は「10年4月の「赤坂璃宮」銀座店」で登場済。そん時は「椒鹽天使蝦/天使海老のスパイス揚げ」ってことで、それも揚げたニンニク、ネギなどの微塵切りをたっぷりつかった「避風塘」でした。
 それも「天使海老」、殻が柔らかい、というよりも、薄い。新しい殻に脱皮したみたいに薄くって、ぱりと言う歯応え以上にさくさくのソフトな噛み応え。その殻が旨い。その身についてはねっとりとした触感で甘味あり。ですが、なんだかちょっと茫洋。そんなことから袁さん、「避風塘」スタイルの「椒鹽」の調理法で、なんて私は想像し、納得。
 そして今回は「トマト風味煮込み」。そう、「茄汁」なんてあるようにケチャップ味付けです。微塵のネギなどの香味野菜とケチャップの甘味、酸味が煎り焼きで下拵えした天使海老の殻の旨味、身の味を引き立てる。それも、ケチャップ特有の味がなんだか、広東風。そういえば上海で食べた「干焼明蝦」に近い感じ。  
そうそう、日本のエビチリ、ケチャップを使うバージョンが広まってますが、あれって陳健民さんが日本人のトマト・ケチャップ好みを察知して四川式の「干焼蝦仁」をアレンジ、なんてことになってますが、どうやら陳さん、上海か香港でそのスタイルに出会ったじゃないかと私は想像。
 この「茄汁天使蝦/天使海老のトマト風味煮込み」を食べて思い出したのが中国北方、沿岸部で一般的な「干焼明蝦」。ケチャプではなく蝦のミソをたっぷり使った料理で、油に溶けた赤いミソの色合いが鮮烈で、見るからに食をそそります。
 「干焼明蝦」はかつて神田の龍水樓の看板料理でしたが、近年、ミソがたっぷり入った有頭の高麗海老の入手が難しくなっていらい、知る人ぞ知る幻の料理に。たまに入手することがあって、ありつけることもあるらしい。
 そんな一人がバードランドの和田さん。 「小倉さんにはナイショにしといてね!」と店主の箱守さんに言い含められたそうで。をいをい、それはないぜ箱守さん、プンプン!
 ついでながら赤坂で宮廷料理、北方の料理を看板にする「涵梅舫」の「大正蝦の山東風煮込み」もまさにそれ。「涵梅舫」ではマストの料理ですが、最近はご無沙汰です。
 続いて野菜料理で「蝦醤炒通菜/空芯菜の海老味噌炒め」。
「空芯菜」の炒め物、ごくオーソドックスな炒め物で、家庭でもよく作ります。
大蒜の微塵や生の赤唐辛子、さらには赤ピーマンなどを加えて海老(厳密にはアミ)の塩漬けの醗酵味噌の「蝦醤」で風味付け。
とはいえ、瞬時の内に空芯菜を炒め合わせるだけの技量、技が問われる料理。仕上げに「だし」を加えて煮含めますが、その「だし」も上質のものに限ります。
 手軽に家庭で作れるようでいて、上手く美味しく作るには難しく、厄介なしろもの。私なんて、いつも「いざ!」とはりきりますけど、出来あがりは決まってなんちゃって「空芯菜炒め」なんで、後悔しきり。
 今回の「蝦醤炒通菜/空芯菜の海老味噌炒め」、煮浸しとまではいかないにしてもいつもより仕上げの「だし」の分量、少々多めの感じで、空芯菜もくたっとした仕上がり。
 「蝦醤」控え目、「だし」味の美味、存在感が際立つ一品でした。

2010/10/31

「赤坂璃宮」銀座店記憶メモの1~真夏間近~10年6月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いて「梅菜蓮煎餅/漬け菜と蓮根入り豚挽き肉の煎り焼き」。

 「蓮藕餅/蓮根入り豚挽き肉の煎り焼き」は09年5月にも登場。 もっともあの時は「家郷蓮藕餅」ってことでした。
 それも豚挽き肉に小ぶりの蓮根、擂り下ろした蓮根に、海老の擂り身が混ぜてあありました。
 小ぶりの賽の目に切り分けられた「蓮根」の「バリ!ボリ!」の触感、噛み締めれば豚肉と海老のすり身の旨味、さらには擂り潰した蓮根のざらっとした触感とほのかに泥臭くえぐみがあり、なんて按配でした。

 ところが今回の「蓮藕餅」、前のとは違ってました。蓮根は賽の目に切られていて、ばりぼりの触感とほくほくした味わいを残してます。さらに、豚挽き肉に擦り下ろした蓮根に「梅菜」加えてあります。
 「梅菜」、そうです客家料理で御馴染みの中国の南方に多い漬物で、芥子菜を一度漬け込んでから天日干しにし、さらに漬け込んだもの。醗酵したひね味に甘味が加味されているのがその特徴。

というわけで前回の「家郷蓮藕餅」とは味も風味も異なります。
「これ、ご飯と一緒にたべたくなりますね!」
なんて話も出るぐらい、よりお惣菜的な一品です。
 こういう「蓮藕餅」、どうしてだか日本の広東料理店でお目にかかれないのがホントに残念。
 続いて「冬菜蒸鮮魚/冬菜とイシモチの蒸し物」

 「冬菜」は細長い形状の「天津白菜」をニンニクと一緒に塩漬けにしたもの。もともとは白菜の塩漬けだったものが、他に香辛料を加味するようになったとか。それもニンニク入りのものが評判を呼び、北方から南方の広東地方、東南アジアの華人社会に広まっていった、といった歴史もあり。

 とまあ、09年4月に「東麗蒸鮮魚」を紹介した時に触れてきたとおり。
 あの時の魚は「あいなめ」でしたが、今回は「いしもち」。
 そういえば、「冬菜」、天津産の「冬菜」だったのにちなんで料理名「東麗」となってましたが、今回はそのまま「冬菜蒸鮮魚」。
 「いしもち」はスーパーで見かけることも多く、手に入れば煎り焼きした上に生姜の千切り、さらには大根の千切りをたっぷり加えて長時間煮込みます。するとスープは白濁。「いしもち」の味、風味を吸い込んだ大根が旨い。
 今回の「冬菜蒸鮮魚」、「冬菜」のひね味を吸い込んでいます。
 ところが塩味がしっかり、かと思えば、むしろほのかな感じ。しかも、塩味だけじゃなくて、独特の甘味もある。どうやら赤坂璃宮特製の「海鮮ソース」を隠し味にしのばせてある様子。それがなんとも効果的で、味わい複雑、しかも、重層的。なんとも心憎い味付け、風味です。
 もとより、魚を蒸すって案外難しい。魚の火の通し加減、それも切り身ならともかく、丸ごとの魚一匹を蒸すとなると、その見極めが厄介。素人にはなかなか出来ない技。年季、経験を要します。

 そんな蒸し加減も絶妙なら、隠し味を忍ばせた味付け、風味も文句なし。素朴な家庭料理なんですが、ひと手間、ふた手間かければ、こんなにも美味に! なんて、袁さんの手腕に脱帽です。

2010/10/11

「赤坂璃宮」銀座店記憶メモの1~真夏間近~10年6月の「赤坂璃宮」銀座店

 今頃になって6月の「赤坂璃宮」銀座店での月例のメニュー紹介なんて、間の抜けた話ですが、やっぱり、記録に留めておきたい。ですが、4ヶ月送れですからいつもより手早く簡潔に。
 まずは「前菜四拼盆/前菜四種の盛り合わせ」。
 画像、右から文旦、豉椒鶏、叉焼、焼肉、みょうが、金糸瓜、パプリカ。奥が海蜇。

 「ウォ、肉の切り方、前よか厚くなってる!」なんて声が上がります。
 そうです、伊達鶏の辛味醤油漬け、皮付き豚バラ肉の焼き物、切り方が分厚くなってしっかりした歯応え。

 TVのバタラエティや食関連の番組で、タレントや芸人の食べ歩き、それも肉の試食で開口一番「柔らかい!」とのたまう御仁の多いこと多いこと。

 「柔らかい」ってのが「美味」の表現に定着してしまったのには恐れ入ります。 そうした方々がほめそやす「柔らかさ」ってのは、実は肥育された牛肉だからじゃないですか?
 本来、肉は噛み応えのある弾力があるもの。それを噛み締めてこそ、肉の味わい、風味があるのをご存知ないらしい。

 もっとも「美味」ではなく「美食」の観点、しかも、中国の宮廷料理の歴史を紐解けば「柔らかさ」というのは、様々な触感の中でも重要なポイント、だったのは事実。
 なんせ、宮廷のやんごとなき方々の多くは生(性)への執着から滋養強壮になるものはなんでも。

 とはいえ、多くは御老齢なんてことから、柔らかい触感というのは必須の条件のひとつだったわけです。なんてことからすると「柔らかさ」をほめそやす、タレント、芸人の方々は、やんごとなき方々と嗜好が御同様? な、ばかな!

 ところで、今回の前菜、叉焼、焼肉の皮のパリ感、噛み応えはしっかりで味わいあり。
 ですが、辛味醤油漬け、前々からちょいと気になってことですが、皮が薄く、皮裏の脂肪質も足りないせいか皮のぱり、さく感が乏しいのと、肉質が緩い。すっと歯が入るような弾力がないのが物足りない。

 付け合せの「くらげ」は、ぽりぱりの触感が良かった。もっとも、少々塩加減が強めなのがきになります。
 野菜類はそれぞれ少量ながら、金糸瓜、パプリカ、素材の生かし方、ばっちりでした。
 それから文旦、沙田柚の「柚皮」を元に、それと種類が同じ日本の文旦の皮を干したものを戻したんでしょうか。 詳細は尋ねませんでしたが、味付けはともかく、じゅわしゅわの触感「鋭い!」と思いました。

 そして「湯」。いつもなら季節の具材を取り入れ、日常素材と組みあせて長時間煮込む「老火湯」か、湯煎蒸しにする「燉湯」ですが、今回は「蟹肉冬瓜羹/蟹肉と冬瓜のスープ」

 「蟹肉」に、体熱をさげてくれる効果のある「冬瓜」を組み合わせたもの。

 「火腿」の千切りがさりげなくその存在を発揮。
 しかし、なんといっても「だし」、それも上質の「上湯」の旨さ、風味が光っています。

 洗練された気品、風格のある奥行き深い味わいが、食べ進むごとにじわじわひたひた押し寄せてくる。もうお手上げ!

 「わ、これすごいや!」と、思わず唸ってしまう見事な「湯」でした。

2010/10/05

2010年の中秋節

 あっという間に10月です。8月半ばに「中性脂肪過多~血がどろどろ」をアップしたまま、9月のブログはすっ飛ばし!その間、お見舞いのメールやら電話、それにブログ・アップの催促も頂戴しました。嬉しい限りです。
 で、件の中性脂肪過多、栄養士指導による食事を実施中。ですけど「結構、手前勝手に都合よく解釈してやってんじゃない?」なんて鋭い突っ込みも!「を、を!中らずと雖も遠からず」とまあ、その辺りの返事は曖昧に。
 もっとも、知人から豆腐や豆乳、湯葉に大豆、頑丈な夏野菜の支援もあり、食事内容に気を配り、一度にばか喰いというのはやめて分食を心がけたことからか、再検査、再々検査の結果は良好。数値、一気に10分の1にまで落ちました。
 「やった、これで食事制限もなくなる!」と喜んだのも束の間
 「いい感じですね。この調子で年末まで食事は栄養士の指導通りに続けてください!」と、代謝科の先生がキッパリ。
 そ、そうですか、そうですか。
 実は再検査、再々検査の間に医師からの助言もあって血液だけでなく各種検査を実施。胃、それに大腸の内視鏡検査と相成りました。近頃、胃カメラって喉からじゃなく鼻から挿入なんですね。ところが、私、鼻の粘膜、過敏症で弱いせいか、内視鏡を鼻から通すのが痛くって痛くって大変でした。以前のように喉から検査してもらうほうがよっぽど楽。
 もっとも、PCのモニターに映し出される胃カメラ探検の模様、これがなかなかの見もの。思わず食い入るように見つめてました。わが胃ながら、ピンク色してぬめっとした感じの胃壁がなんとも旨そう!刺身にして喰う、そうだ、韓国式のアレで……なんて具合です。
 「そろそろ胃にはいりま~す」とか、「ここから十二指腸ですから」なんて話を聞くと 「を!ここが「肚尖」か!」と豚の胃の食道と十二指腸の連結部を素材にした「肚尖」の料理の数々が思い浮かびます!
 大腸の内視鏡検査では2日前から食事制限。おまけに3時間かけて胃、大腸をすっからかんにする洗浄液を2リットルも飲まされたのに難儀しましたが、内視鏡での大腸内探検もこれまた見ものでした。
 ブログ休載中、中性脂肪過多の話と共に問われることが多かったのが月例の「赤坂璃宮」銀座店の報告。読んでくれてる人がいるってだけでも嬉しくなります。実は下書きも画像も用意して準備万端。ところが色々あってアップしないまま放置状態と相成った次第。それも6月以後未掲載なんてことになってしまいました。ですから、これから3ヶ月分、おいおいと。
 そういえば、「赤坂璃宮」の飯田橋店も再訪。これがまたなかなかの内容でした。他にも打ち合わせの際には目ぼしい店を選んで、とまあ食事制限ありの食事療法施行中の身の上ながら、道を踏み外すことも度々で。
 おまけに、今年も中秋節の前には月餅が続々到着。中性脂肪過多にはもっての他のはずですが、旨い月餅はこの時期でないとありつけませんから、その機を逃せない。
 蓮の実餡の蓮蓉、白い蓮の実餡の白蓮蓉に、塩漬け玉子の鹹蛋が2個入りの雙黄、3個入りの三黄。伍仁(糖蓮子、瓜子仁、杏仁、芝麻、欖仁)に火腿、糖冬瓜などによる伍仁金華火腿など、各種が勢ぞろい。
 私の一番の好みは、以前、紹介しましたが九龍城市城南道の「和記隆」の「百合芋泥月餅」。
 しっとり、ねっとりのタロ芋餡の自然で素朴な甘さは格別です。
今年は平ったい餅状の「月糕」もゲット。
 一緒に届いたマカオの英記特製の「荔枝紅茶」とともに味わいました。


 広東式の月餅ってことなら、今年は榮華の「三黄白蓮蓉」の白蓮蓉の味わい、風味がことの他、素晴らしかった。ですが、止めを刺すのが丸福食堂の雙黄蓮蓉。
 外側の糖皮は薄く、しっとりとしていて柔らかい。しかも、さくっとした触感で、ほろり、はらりと糖皮が脆く崩れていく。
 蓮の実餡は、しっとりとしているだけでなく、ねっとりとしていて、緻密で濃密。香港の蓮の実餡はほとんどが羊羹のように練ってこってりの弾力があったりしますが、丸福食堂のは滑らかで、舌の上で餡が溶けていきます。
その味、風味は洗練を極めたもの。品格があって奥深く、なんと言っても官能的。厳選されたクセのない鹹蛋の美味も他に見あたらない。世界一の月餅です。
 そんなことから中性脂肪過多なんぞ忘れて月餅ぱくぱく。うちのカミさんもやめられなくて、体重が一気に増加と嘆くことしきり。ならやめればいいのに。けど、やめられませから、旨い月餅は。
 で、肝心の中秋の名月、デジカメ携え、深夜の街を徘徊。ところが、今年は夜空を見上げても曇り空に覆われていて拝めずじまい。デジカメのシャッターを切っても写っていたのは真っ暗闇ばかり。
画面の端っ子に道端の木々のテッペンの連なりが写っておりました。

2010/08/14

夏の朝食~中性脂肪過多~血がどろどろ!の2

  「あのうトマトの上に乗ってるのは何?」
 何人かの方からそんな質問、頂戴しました。
 「お皿に乗ってる大豆をマッシュしたもの?」 なんて尋ねられました。
 言われればなるほど、青味がかった鶯色は皿に盛った大豆とにています。
 マッシュしてあるのは、東松山の農業、加藤紀行さんの栽培した青茄子をペーストにしたもの。たくさん届いた青茄子、煮込んで頑丈なことからタイ式、もしくはイギリス式のカレ、それに麻婆茄子なんかにします。
 青茄子、ウチのかみさん、タイ式カレーばっかり作ってるせいで飽きちゃった!ってことから、蒸して胡麻和えからナムルにするのが好みのようです。

 それなら!てことで、青茄子、蒸してペーストにしました。味付けは塩、擦りおろした大蒜だけのシンプルなもの。トーストにそのまま塗り込んだり、トマトと和えてパスタのソースにもしますが、今、一番の好みは、東松山の農業、加藤紀行さんの栽培した加賀太胡瓜のスライスに乗っける。さらに、その上から青唐辛子漬けのオリーブ・オイルをかける、といった按配。
 そして、川越の豆腐屋、小野哲からの差し入れの大豆。その名は「秘伝」。
 「ン!?、それにしてはサイズ大きくない?」なんて方がいらっしゃるかも。
 実はこの「秘伝」、もともとは山形産の品種。かつては門外不出のものだったそうですが、種が流通しはじめたのをきっかけに秋田の方に栽培を依頼した特別製。それも、年々土地になじんだり、秋田の青大豆、秋田みどりだったか、自然交配なんてこともあって、一粒のサイズが大きめに。山形の「秘伝」特有のクセが薄れ、青味、それになによりも甘味が立って糖度が高い、というのがその特徴、なんて小野哲からレクチャーを受けました。
 そんな特別性の「秘伝」、たっぷりの水に浸して一晩寝かし、せっせせっせと灰汁取りしながら煮込みます。煮上がった豆の半分は、茄子のペースト同様にシンプルな味付けで、仕上げはやはり青唐辛子入りのオリーブ・オイル。
 そそ、青唐辛子付けのオリーブ・オイル、仕込んで一月、辛味、風味ばっちりです。
 残りの半分は浸し豆に。
 なんでも小野哲は鰹節だしと醤油に漬け込むそうな。我が家では昆布だしに醤油という組み合わせです。本日、またまた小野哲から差し入れの大豆が到着。大豆三昧の嬉しい日々が送れます! 

2010/08/11

夏の朝食~中性脂肪過多~血がどろどろ!

 ここんずっと厄介な仕事を抱えておおわらわ。そのうちひとつがやっとこさひと段落。思わず「ふ~」とため息、なんてついてる場合ではありませんでした。8月に入っちゃいました。おまけに10日も過ぎちゃった。
 厄介な仕事の間隙を縫ってブログ更新のつもりでしたが、7月半ば過ぎの梅雨明け早々、いきなり夏日が連日到来。それもかんかん照りの日の休日のお昼、外食に出かけたところがその帰り、枝雀風に表現するなら「おひいさんがカァ――――!」とまあ、無防備のままだったもんで直射日光に襲われ、熱中症状態。おまけに急激な気圧の変化に体がついていきませんでした。
 そんな按配で仕事は一向にはかどらず、べた遅れ。ですからブログの更新もベタ遅れ。とはいえ、そんな間に仕事の打ち合わせ、打ち上げ、コンサート帰りに時間のゆとりがあればちょくちょく外食。そういえば、私好みのビストロに出会う幸運も。詳細はその内ご報告。それに、何十年ぶりかで渋谷の「麗郷」で、昔懐かしい台湾料理の何品かを味わい、時代の変化を知る!なんてこともありました。

 しかし、日常の食はいたって素朴で質素。というのも、完治したはずだった足の皮膚の炎症が再発。その際、血液検査を受けたところ
 「あの、中性脂肪過多です。この数値、なんとかしなきゃいけないですね!」 なんて言われて「は!?」と私。
 「検査の前日、脂っこいものを食べました?」
 「う~ん、そうだ「赤坂璃宮」で広東料理を食べましたが」
 「そのせいかな?」
 「でも、赤坂璃宮の料理、食べたのは脂っこくて味の濃い日本の中華とは違って、惣菜的なものだし、油の使い方も抜群だから、無駄がないってことですけど……」
 「ん!?」なんて返事に、説明してもわかんないかと、ひとりごち。

 「それより、この数値からすると小倉さんの血液はどろどろ!」
 「どろどろ?」
 「そうです。どろどろ!代謝内科の先生を紹介しますから、診てもらってください!」
 なんて宣告されて、あっけにとられたまま代謝科へ送り込まれました。

 「血液、どろどろですね!」と、またもや「どろどろ!」。
 「処方箋出しますからとりあえずこれからしばらく薬飲んで。それから、食事療法もやらなきゃ。指導を受けてください!」と上から目線できっぱり宣言されました。

 行きました、指導を受けに。そしたら、懇切丁寧にこれからの食事のあり方、教えてくれました。
 ですが「は?え?これ(食べちゃ)だめ?」とまあ、数々の制限に恐れおののいた私であります。
 「いえ、すべてがダメというわけじゃなくて、食べるなら分量を控え目にする。それから、いくつかの品目をまんべんなくとる。しかも、一度じゃなくて、何回かに分けて食べる!」。

 要はカロリー摂取制限。
 「そうです。主食のごはん、パンの類などは必要以上に食べないこと。緑、黄色、白色の野菜類をふんだんに。根菜類は主食類と重なるものがありますから要注意ですよ。糖分、塩分は控え目にね!」
 「あ、それなら、私、塩分過多になると疲労感を覚えるんで、日頃、塩分は控え目です。それに醤油も苦手で、刺身など醤油はほとんど使いませんし、使うにしても控え目ですから。
 塩気が必要なら、漬物やアンチョビは蝦醤などの魚類やパンチェッタなどの肉類の塩蔵物などを適宜使ってますし、砂糖は上白が苦手で、黒砂糖です。それに近頃の果物、甘いばっかりで、香りが乏しいし、縁遠くなってますから。それより、むしろ無花果とかレーズンの干したものをたべたり、砂糖の替わりに料理に使って甘味や風味をだしてますから!」としつこく食い下がる私です。

 「あの、塩蔵物はいいんですけど、やはり分量を加減しないと。それに、干したレーズンや無花果もいいですが、生のものにくらべると糖分が凝縮されてますから、糖分過多になりますから、使用量は控え目にしたほうがいいですね」なんて話にガ~ン。
 「それから、肉類の摂取は控え目に」
 「私、最近の肥牛が苦手なんで、牛肉は滅多に食べません。それより仔羊とかが多いですけど。そうだ、鶏の手羽元、コンフィにして食べるのと、手羽先でだしをとったりしますね」。
 「それもいいですけど、魚類もとるようにしてください。白身の刺身でもいいですし、青魚、鯖や鰯。ただ、分量は控え目に!それから、蛋白質は大豆や大豆の加工製品で摂取してください!大豆を戻していろんな料理にする。今の季節なら、枝豆ですね。
 ただし、蚕豆は澱粉質と糖質が多いので、食べるのは控え目に。そうそう、とうもろこしもそうなんです。う~ん、分量、食べすぎなようですから、出来れば避けた方がいいかもしれませんね!」
 「エ!? 蚕豆もとうもろこしもダメ?今の季節、一番の楽しみなのに……」
 「はい、そうです!」ときっぱり。

 なんてことで、好物の蚕豆(のパスタ)、がぶりつきのとうもろこしは、今のところご法度。こんな淋しいことない!
 「あの、それから、牛乳、ミルクですけど、どのぐらい飲まれます?」
 「う~ん、どれぐらいだろ。夫婦ふたりで牛乳のロング・パック、一週間に4パックぐらい消費してるかな……」
 「それはいけませんねえ。牛乳を豆乳に代えてみてはどうですか?そうすれば、大豆製品の摂取にもなりますし……」
 というわけで食事内容に工夫を凝らす日々を送っております。
 そんな話を知人の川越の豆腐屋の小野哲にしたら、大豆を送り届けてくれました。感謝感激。加えて、埼玉の東松山の農業、加藤紀行さんから届く各種の茄子や胡瓜が体熱を下げ、身体を浄化してくれます。というわけで日頃の朝食、というか、ブランチですけど、こんな感じ!

2010/07/14

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の5

 さらにもう一品海鮮料理。
 海老を素材にした料理ってことでは、まず「白灼蝦」と「火焔酔蝦」が無難な選択ですが、あまりにベタ過ぎる。もっとも、蝦の種類、産地、時期によってはその限りにあらず(なんて、私、ほんとにヤな奴、生意気で我儘な奴だと我ながら思います!)。

 ここ最近、東京で入手可能な(ってことは築地ですよね)日本各地の海老、車海老、才巻きの類ですが、福臨門や赤坂璃宮はじめ、他の中国料理店で色々で試してみて「椒鹽焗蝦」、「蒜茸蒸蝦」、「豉油皇煎蝦」での味付け、調理が、日本の海老には合ってるようだし、比較的安定という結論。

 もっとも、調理の技、つまり、火の通し、鍋使いの技術も関係してのことです。加えて、赤坂璃宮。銀座店の袁師傳がたまにやってみせてくれる「避風塘炒蝦」も、悪くないチョイス。ただし、これも味付けの要となる蒜茸、辣椒など香味野菜、香辛料の扱いと、火の使い、鍋の技が問題です。日本の中華料理店での香港風をまねしたそれ、たいては味が濃くって、脂っこい。故にひと口でガツンの味!なんてことから「ワ!これ本場風!」なんて方も多いようで。あれって、香港でも大衆的な海鮮料理店に特徴的な味、ですから。

  ということで、今回、上質の海老の入手が可能なら!ってことで「豉油皇煎蝦」をリクエスト。 はたして目の前に現れたのは「豉油皇避風塘中蝦」。

「ン!?「豉油皇煎蝦」じゃないんだ!」
そう思ったのは海老の殻の周り、皿の上に「避風塘」スタイル特有の香味野菜、香辛料の微塵切りの揚げ物が!
 噛み締めると海老の殻はからり揚げられ、ぱりっとしていて、殻がはじけます。それが、次第に醤油の味、香ばしい風味が立ってきて、さらには「避風塘」スタイル独特の香味野菜、香辛料の微塵切りの揚げ物のひりっとした辛味、香ばしさが浮き立ち、醤油の味、旨味、風味とないまぜになって、味わい、風味を増していきます。
 おまけにぷりっとした触感の海老の身、その甘さ、旨味がこみ上げてくる。
「豉油皇煎中蝦」にしては、味わい、風味、フクザツ。かといって「干煎蝦碌」のような濃厚でクラシックな味わいでもなし。

 こんな料理方法、福臨門ではおめにかかれなかったもの。福臨門の「豉油皇煎中蝦」はもっとオーソドックス。火が通った殻の味、風味。身は火が通っていながら生な触感、味、風味を残したレア状態。噛み締めれば海老の甘味、旨味が浮き立つという寸法。

 どうやら百駒師傳、香港に戻って豪華客船「亜州之星(ASIASTAR)」の料理長などを務める間、さらにはその後、香港の広東料理の最新事情をリーサーチ、ってことからしい。百駒師傳に話を聞いたところ「伝統的な広東料理、家郷菜も得意だけど、香港の最新の料理にも興味があってね。日本に紹介されていない料理がたくさんあるから、それを紹介したいんだ」と目を輝かせます。

 「そうなんですよ。百駒さん、最新の料理のアイデア、色々あって、あれやりたい、これやりたい。あんなのどう?これじゃだめかな」と、次から次へとアイデアを出してくれるんです。けど、そのまま今すぐ、ここ(飯田橋店)で出しても、はたして受け入れられるかどうか」と野坂支配人。
 嬉しい悲鳴をあげながらも、いささか思案顔で表情ふくざつ。客の好み、関心、興味は家郷菜にありとはいっても、もっぱら高級素材を使った海鮮料理が主体。そんなことで「例湯」もさして関心をもたれず、というのが野坂支配人の悩みどころ、なのはよくわかります。

 ともあれ、香港の福臨門の顧客の要求に応えた「家郷菜」だけでなく、香港の最新の料理にも興味有り、なんてことがわかりました。というからには、その両者のよさを取り入れ、組み合わせたコース設定で!というのが、赤坂璃宮・飯田橋店の楽しみのひとつになりそうです。

 締めくくりの面・飯。炒飯や炒面では、なんだかお腹満腹、アップアップになりそうです。
 「あの、米粉ない?生米粉じゃなくって干米粉でいいから。そうだ、榨菜と豚肉の細切りの湯米粉!」 百駒師傳にそんなリクエスト
 「ああ、それ、いいね。あ、そうだ。さっきの「斑頭腩煲湯」の「だし」、まだ残ってるからあれ使って作ろうか!ちょっと待ってて!」とキッチンへ!

 そして「斑頭腩煲湯」のだしを使った特別仕立ての「榨菜肉絲粉湯」。
 「二湯」で作る「榨菜肉絲粉湯」は、すっきり爽快な気分になるもんですが、この特別仕立ての「榨菜肉絲粉湯」は「斑頭腩煲湯」のだしの味が利いています。
 味わいが濃厚で、旨味もたっぷり。はたのあらでとっただしですから、海の味のエッセンスが生きてます。
 こんな「榨菜肉絲粉湯」は、私、初体験。贅沢この上ない締めくくりの一品でした。

2010/07/13

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の4

 そして「順徳煎排骨」。
 「何か肉料理、食べたいんだけど、家郷菜でアイデアありますか?」と野坂支配人を経由して百駒師傳に尋ねてもらったところ、返ってきたのがこの「順徳煎排骨」。私、初体験。

 芥子菜を二度干しした甘味のある「梅菜」と豚ばら肉を煮込んだ「梅菜扣肉」では、ちょっと芸がない。そんなことから中国オリーブを干して塩漬けにした「欖角」を使って煮込みにするか、蒸し物にするか、なんて思ってました。

 ところが開店早々の「飯田橋店」には「欖角」の用意なし。なんてことで百駒師傳、思いついたのがこの料理だったそうで。豚の骨付きばら肉の「排骨」を「葱頭」、厳密にはベルギー・エシャッロットと炒め合わせたもの。

 実にシンプル、いたってシンプルな料理なんですが、火を通した「葱頭」の風味抜群。
 ちょいひり味の辛味、刺激味もありながら、甘味もある。そして「排骨」は煎り焼き、なのにしっかり火が通っていて、なおかつ、肉質は柔らかく、甘味、旨味があります。 骨にしがみついた肉の旨さは格別ですが、それを満喫。鍋使い、「火」の技に恐れ入りました。

 続いて再び海鮮料理の「卵白蒸栗蟹」。
 この栗蟹、野坂支配人の故郷の味だそうで、地元で収穫有りと言う話に、早速、取り寄せた地場物です。
 「栗蟹」は「毛蟹」の同種で、「毛蟹」よりも一回り小ぶりです。その身は「毛蟹」そのまま。ですが、ミソ、「毛蟹」に比べると小ぶりな分、量も少なく、味の濃さがいまひとつ、なんてことから中央の市場では人気薄。地元消費が中心なんだそうです。

 「毛蟹」といえばその鮮度もさることながら、その茹で方、蒸し方が肝心。その味、風味の要、なんてのはこれまでの体験に則してのこと。茹でたて、蒸したてならいざしらず、冷えた「毛蟹」の磯臭さ、勘弁してほしいな、なんて体験、数限りなし。そんなことからこの「卵白蒸栗蟹」、「栗蟹」が「毛蟹」と同類という話に、疑心暗疑。

ところが、「栗蟹」の甲羅を開き、卵白を加えて蒸したこの「卵白蒸栗蟹」。
 鮮度のよさもさることながら、その調理、味付け、卵白を使ってあるからでしょうが、上品で洗練されます。ミソも濃密。
 しかも、素朴ですけど、押し付けがましさがない味わい、香り。しっかりその存在を主張しています。
 日頃、蟹にはなかなか手の出ない私ですが、この「栗蟹」、それも「卵白蒸栗蟹」の味、風味に納得どころか、感心しきり。その穏やかで優しい味わいに惚れました。

2010/07/12

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の3

 話戻して「赤坂璃宮・飯田橋店」の初探訪記。 ハタのアラは「芥菜豆腐痩肉斑頭腩煲湯」、身は「麒麟蒸紅斑」となった「海斑両吃」に続いて、「脆皮手撕鶏」が登場。
 私、この料理初体験。いや、厳密に言えば、画像でも明らかなように鶏の皮はその色艶など実に見事。揚げた鶏の皮は見るからに「脆」、パリパリの状態。実際、噛み締めるとぱりっとした触感。まるで福臨門の看板料理である「(當紅)脆皮鶏」の表皮そのまま。

 しかしこの「脆皮手撕鶏」、揚げた鶏から皮をはがしてあります。それこそ、北京ダックさながら。北京ダックの家鴨を鶏肉に代えて窯焼きにした香港生まれ(?)の「片皮鶏」のサービスの仕方と同じ。その辺り、皮付きの鶏肉をが福臨門の「(當紅)脆皮鶏」と違います。

 鶏の丸揚げの皮の下の鶏肉、鶏肉を(大ぶりにですが)食べやすく裂いてあります。そうかそれで「手撕鶏」なのかと納得。「手撕鶏」といえば茹でた鶏肉の身を裂き、タレ、香味野菜で味付けした湾仔の「酔湖」の看板料理を思い出します。

 この「脆皮手撕鶏」。パリサクの触感の鶏の皮がうまい。しかも、噛み締めてしっかり歯応えのある厚みがあります。しかも、皮の裏の部分、皮の裏についた脂肪が皮の裏側を焼いていて、これがまた独特の味、風味を醸し出す。もっとも、北京ダックや「片皮鶏」の皮とは触感、味、風味が異なります。やっぱり丸揚げ、ってところが独自の味、風味を生み出してるんでしょう。

 鶏の身、その表面は少々乾いた感じ。ですが噛み締めるとすっと歯が入る柔らかさ。ですが、しっとり感と粘着質の弾力があり、なんてところも面白い。塩味、しっかり利いていて、鶏肉の旨さを引き出してます。
 考えてみれば鶏の丸揚げの「炸子鶏/脆皮鶏」の皮と身をそれぞれに味わう「脆皮鶏両吃」なんだと納得しました。

2010/07/07

夏味到来

 ちょい厄介な仕事を抱えていたもんで更新、滞りました。
 ここんとこ60年代から80年代にかけての洋邦の名盤の企画での選出やら執筆。そればかりか当時のアルバムのシリーズものの監修企画の話などもあって、昔の資料を取り出し、てんやわんやだった次第。ビートルズなんかも振り返ったりして。かといって懐メロモードてわけでもありません。
 
 そんな最中、6月の末に待望の「夏味」到着。埼玉県東松山の農業、加藤紀行さんの作った野菜です。武蔵地這胡瓜、青茄子、青唐辛子にじゃがいもがどっさり。
 梅雨明けはまだですが毎年、加藤さんの野菜がこないことには夏が来た!という感じがしません。しかも、昨年に比べて一月早い「夏味」の到着。
 春過ぎだったか、ここんとこ例年、夏の天候は不順続き。
 おまけに今年はアイスランドの火山噴火などもあって「冷夏になりそうで、上手く育ってくれるかどうか」なんて先行き不安な様子でした。
 それが今年はいつもより早くに「夏味」到着。
 「どうしたんですか?」  なんて尋ねたら
 「ええ、一生懸命がんばりました!」と、加藤さん。
 ン?いつもはそんなに頑張ってなかったってこと?

 嬉しいのは青茄子。こんなに早くに青茄子にありつけるとは思いもよりませんでした。
 こんなことなら青木さんに連絡して福臨門の広東料理の季節の宴、再開が楽しみ。なんて思ってたら
「そ、それは、ちょ、ちょっと待ってくれませんか。頑張って早く収穫できたんですが、それが、どうも収穫が安定してない感じなので。もう少し、様子をみてからの方が……」と、後ずさり気味な様子。

 武蔵地這胡瓜は、昨年、最初に届いたものと同様、真ん中の太いところは直径3センチぐらいありそうでうんと胴長。収穫遅れて、育ちすぎ、じゃないですか?なんて尋ねたら
 「いや、ほんと、そのままにしておくと、一日、一日うんと成長するんですよ。朝と夕方でも、太さも長さも違いますから。でも、今回はエージさんのお好きな「胡瓜のサンドイッチ」にするにはうってつけだろうと思って、わざと収穫時期をずらして、太く長いのをお送りしました!」
 なんて言われると、感謝、感激、ありがたい。

 ほんとイギリス式の胡瓜の胡瓜のサンドイッチを作るには、普通の胡瓜だと細すぎる。かといって加賀太胡瓜だと大きすぎる。育った武蔵地這胡瓜がうってつけ。ですけど、そだった分、ちょい大味気味なのは否めない。ですが、程々の塩を振りかけてしばし寝かせると、瑞々しさをとりもどし、旨味凝縮。香りが立つようになるのが不思議です。

 ウチのかみさん、胡瓜のサンドイッチには興味なし。
 「生で食べても旨味も香りも乏しいから・・・そうだ、胡瓜のナムル!」
 そんなことで、塩をまぶし香味野菜とごま油、それに仕上げに煎りゴマを振り掛ける辛味なしのナムルをどっさり。
 面白いことに、これまた胡瓜の旨味、香りがみるみるむくむく、正体を現します。ですから、胡瓜がうまくて、食べ飽きない。それに加藤さんの野菜に特徴的な大地に根ざした野菜の底力を見せ付けてくれます。たっぷり食べれば清々しくって気分爽快。体の毒気、全部洗い落としてくれるみたいで、気持が良くって、元気なります!とかみさんニコニコ顔。

 青茄子はもちろんタイカレー。グリーン・カレーです。
 青茄子使ったフクザツで手の込んだ料理は福臨門におまかせ。
 青茄子、緻密な肉質なのに、しっかり煮込んでも煮崩れない。旨くて、香り豊かです。

 そして、今回の最大のヒットは激辛の青唐辛子。生のままで辛味があたり一面!なんてくらい香り強烈。青々しい爽快な味、香りに悩殺されます。それを4~5本、刻んでニンニクと一緒に弱火で煎り焼きにしてアリオリ・ペパロンチーニ。もちろん、試しました。

 でも、それだけじゃ芸がない。いつもなら青唐辛子を微塵に刻んで醤油漬け。
 それよりも!と思いついたのがペペロン・オイル。
 エクストラ・ヴァージン・オイル一瓶に、生の唐辛子を刻んで漬け込んだ次第。
 普通は一月ぐらい冷暗所に寝かせれば唐辛子のひり辛味が生きてくる、なんてことでしたが、翌日、瓶のふたを開ければ、もうすっかりペペロン・オイル、辛味のある風味ありあり!しかも、日々、辛さをましていくのに思わずコーフン。

 でも、それだけじゃ物足りない。ってことで、柚子胡椒作りを思い立ちました。
 青柚子を買い込み、青い皮を擦りおろし、刻んだ青唐辛子に混ぜ合わせ、擂り鉢で塩を加えながら粘りがでるまですりすりこぎこぎ。
 ところが、青柚子の皮を擦りおろすのに、案外、手間取りました。おまけに擂り鉢ですりすりこぎこぎも、想像していた以上に手間取る作業。忙しい合間、柚子胡椒作りを思いついたのものの、それこそ寝る時間を惜しむことになるぐらい、時間くっちゃったりして。ま、仕事よりも食い気ですけど。

 出来上がった柚子胡椒。市販のものとは大違い。旨さもさることながら、香りの立ち方、その風味、全然、違いますから。しかも、味わいが自然ですっきり。唐辛子ふんだんに使ってるのに甘味がある。市販の柚子胡椒、成分みると唐辛子、柚子、塩ってことですが、なんだかそれ以外にいろいろ入ってんじゃない?なんて、疑惑の眼差し。それぐらい、自然な味、風味のある柚子胡椒が出来上がり。

 それでもまだ青唐辛子は残ってます。なんてことで、なんとか試みたかったアイデアを即、実行に移しました。青唐辛子を使ったラー油です。
 ところが、作り方がわからない。ネットでレシピを検索しても、食べるラー油の話題ばっか。
 みつけた!なんて思ったら、赤唐辛子の粉末、それに鷹の爪を使ったものばかり。
 青唐辛子だから、爽快な青々しさのあるラー油が狙い、だったのですが……。

 こうなりゃ、鷹の爪、赤唐辛子の粉末を使ったラー油作りのレシピをもとに、その作り方、プロセスを参考にしながら、青唐辛子に置き換え、いざ実践。
 油の中に少量の刻み葱、刻み生姜、刻み大蒜に、八角、丁子、陳皮を加え、油を熱します。その温度を見計らい、ここぞというところで熱した香辛料入りの油、刻んだ青唐辛子を入れた鉢に注ぎいれます。熱い香辛料入りの油を注いだ途端、泡吹き状態。それを冷まして油が入っていた瓶に刻んだ青唐辛子、香辛料共々戻しました。

 出来上がり早々は油の味、風味ばかりが際立つ印象。
 う~ん、失敗かな。やっぱり、青唐辛子に熱した油を注ぎかけるのは乱暴すぎたかも。
 青唐辛子の青々しい香り、風味、すっきり爽快な辛味、飛んじゃった感じ、とまあ、反省しきり。

 ところが、です。翌朝、小皿に垂らして舐めてみたら、最初は油の味。ですが、やがてかすかに、そのうちじんわり青さのある爽快なひりっとした辛味、風味が次第に立ってきました。
 お、やったかも!
 それから数日、寝かせて味見をしてみたら、爽快なひり辛、辛味を増した青さのある激辛の味がくっきり、はっきり。麻婆豆腐を作る際、鷹の爪、どっさり油で揚げて即席のラー油作り、なんて普段からやってる私ですから、それとは明らかに異なる味、風味を持つラー油だってことはわかります。しかも、日々、辛さをましていきます。その爽快な辛さがたまらない。
 いろんな素材と青唐辛子もラー油との組み合わせ、最高のマッチングを探索せずにはいられない。
 ここんとこ、毎夜の食卓に青唐辛子のラー油が登場です。 

2010/06/30

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の2

 当日、登場した料理は以下の通り。
 前菜はなしにして、まずは「湯」。「芥菜豆腐痩肉斑頭腩煲湯」です。
 芥菜、豆腐、豚赤身肉とハタの頭、アラの土鍋煮込みのスープ料理。
 ハタはあずきハタ。ハタは時価ですから値もはります。本音としては避けたい事態。ハタほどではないにしても値は張りますが、肉質とかを考えればアイナメあたりでとも思いましたが、生憎、これぞというアイナメの入荷がなかったそうでハタになったという次第。
 もっとも、高級海鮮が看板の赤坂璃宮ですし、しかもホテル内のレストランということからすると、それなりの魚ってことになるとハタ、という事情も納得ができます。

今回のハタの調理方法。頭や中骨、胸鰭、尾鰭などのアラの部分は「湯」にして、残る身は別の料理に。というのは「海斑両吃」のバリエーション。本格的な宴会料理などの場合にはハタも大ぶりのものが用意されます。

 それも、身の部分は油通しの「油泡」にする「油泡斑球」や切り身に菜芯の茎を身に刺し火腿などもはさんで簪仕立てにした「玉簪斑球」ってことで「油泡」にする。もしくは「清蒸」にする。アラの部分は揚げて醤油煮込みにする「紅炆斑翅」というのがスタンダードというかオーソドックな「海斑両吃」。

 それがアラの部分をスープ仕立てにするのは、通好み、もしくは、上流家庭の家庭料理的趣ってことになります。魚はなんにしろ頭や砂擦り、縁側などヒレのついた部分が旨いのは魚好きならご存知のはず。

 そんなハタのアラと芥菜、豆腐を煮込んだスープですが、痩肉(赤身肉)を使って旨味を加味。しかも、海鮮の魚、やはり、煮込むと特有のクセが出る。というあたり、生姜とかでクセをなくしてあります。
 白濁したスープは魚を煮込んだスープ料理特有のもの。しかも、コクがありますが、すっきりとしていて爽やか。上品で洗練されています。「赤坂璃宮」銀座店の袁さんも同じような料理、これまでに作ってくれましたが、やはり料理人の個性の違いが出るもので、袁さんのそれとはどこか違います。福臨門系の味、風味、ということでその出自を隠せない。

 続いてハタの身。1センチ弱の厚みに切り揃え、火腿、干椎茸を並べて蒸した「麒麟」仕立て。その周りには芥蘭。ハタの身もさることながら、火腿、干椎茸の組み合わせ、その味の差異、さらには上湯をベースにしたダシの旨さが格別です。
 やっぱり、こういう料理だとハタじゃないと、なんて思わず口に出たりして!

2010/06/28

赤坂璃宮・飯田橋店・初探訪の1

 福臨門、赤坂璃宮・銀座店に続いて、また一軒、東京に香港の本場の味を伝え、再現してくれる店が誕生しました。飯田橋のエドモントホテル内に開店した「赤坂璃宮・飯田橋店」がその店です。
 なんだ、また「赤坂璃宮」なの?なんてツッコミが入りそう。
 「それより「ヘイフンテラス」はどうなの?あそこも香港の料理人でしょ?」とツッコミの追い討ちもありそうで。
 「はあ、黒服の女史の呪いが……」と、そこは苦笑してお茶を濁します。

 飯田橋のエドモントホテルには「廣州」がありました。新宿の京王プラザホテルの「南園」の料理長だった譚さんが「赤坂璃宮」を開店するまで料理長を担当。譚さん、確か「赤坂璃宮」を開店後も「廣州」のアドヴァイザーを務めていたはず。現在、銀座店の料理長を務める袁さんも「廣州」の料理長を務めていたことがあるなど譚さん、「赤坂璃宮」とは少なからず縁、関わりのあった店。それが、この5月から「赤坂璃宮・飯田橋店」として新装開店。

 支配人を務めるのは野坂裕彦さん。かつて福臨門銀座店に務め、その後、赤坂璃宮やら薬膳料理の店やら色々経て、中国で紹興酒の勉強して後、赤坂璃宮に復帰。そんな野坂さんが香港から引き連れてきた料理人が呉百駒総料理長。以前、銀座の福臨門で呉錦洪さんの相方役、つまりは「板」を担当していた優れた料理人。

 いずれも私には長年の知り合い。一緒にやってきた点心料理長の范俊強師傳もこれまた知り合い。とりわけ百駒師傳は錦洪さんともども広東地方の本地風味の「大菜」、「家郷菜」、「小菜」、旬の味の数々を色々と頼み込んで作ってもらったことがあります。

 ところで、鍋を担当した総料理長の呉錦洪師傳は、徐維金社長とともに九龍の福臨門の料理を管理してきた名料理人の羅安さんの愛弟子です。しかも九龍の福臨門、日本では観光客向けの店、などと紹介されていることが多く、そんな話を鵜呑みにしている方も多い様子です。

 九龍の福臨門に観光客が多いのは事実です。が、実際のところその主要な顧客は九龍半島の付け根、深水渉から観塘まで東西に連なる地域や、沙田よりさらに奥の大埔あたりで工場を所有、経営する企業家です。そうした顧客の要求もあって九龍の福臨門は郷土料理が充実。季節素材を使った家郷菜、小菜を紹介したメニューが早くから用意されていたのはそうしたことによるもので、当初、九龍店にしかありませんでした。

 ついでながら、後には香港の福臨門でも「家郷菜」、「小菜」のメニューが用意されるようになり、しかも、ここんとこ香港島の福臨門の長年の顧客の新世代の間でもてはやされているのがその種の料理、というから面白い!

 さて、呉百駒師傳。香港時代の福臨門は香港島にいたはず。東京にやってきた呉百駒師傳は呉錦洪さんの相方となって、羅安さん直々の料理や九龍福臨門の顧客が好む「家郷菜」、「小菜」の類に出会った様子。というか、私、福臨門の(初期)銀座店でもっぱら楽しんでいたのは、それら九龍の福臨門系の料理の数々です。しかも呉百駒師傳は板を担当氏、呉錦洪さんの休日、不在時には鍋を担当。

 そういえば、かつての銀座の福臨門ではたまに香港島の福臨門の料理人がやってきて鍋を振るうなんてことがありました。広州生まれの黄師傳はそのひとり。その料理内容、味、香りの素晴らしさは衝撃的。九龍の福臨門の羅安さんのどっしり重量感のある料理とは実に対照的。繊細で緻密、穏やかで優しい味わい、馥郁とした風味。ウチのかみさん、香港から日本にやってきた料理人の手になる料理で「あの時食べた料理の素晴らしさは、あの時以前もあの時以後もなし!」なんてことで、時に思い出しては遠い目!

 話戻って、その後の呉百駒師傳。「2005年から2009年まで豪華客船「亜州之星(ASIASTAR)」の料理長を務め」ていた、とエドモントホテルのサイトの「赤坂璃宮・飯田橋店」の紹介にありました。そんなことからすれば、ここ最近の香港のトレンドを取り入れた料理などもありかも! 呉百駒さんの料理への期待に胸が膨らみます。

 開店からしばらく、なんとかして出かけたいと思いながら、その機会は見つけられませんでした。それが、たまたま会談の要ありってことで、急に思い立ってでかけることにしたのは5月の半ば過ぎ。
 もっとも、それまでに「何か百駒師傳らしい料理のいくつかを頼めない?」と、事前に野坂さんには打診済。結果、いくつかメニューを教えられてました。

 開店して間もなく、体制も充分じゃないという事情はわかっていても、ありきたりな開店記念のコースや「お決まり」、「おまかせ」のコースではつまらない!そんなところに「お好みで!」なんてお願いするのは、無理のゴリ押し、わがままオヤジの性分丸出し!とはわかっていても、百駒師傳ならではの料理が食べたい!という欲望は抑えられません。

 野坂さんを通じて届いた百駒師傳のいくつかの料理。海鮮素材主体です。
 それもいいですけど、日常素材、旬の素材を使った「例湯」や「広東小菜」、「煲仔」なんかどうですか?と野坂さんに尋ねました。

 「「例湯」を「最初、出したんですが、お客様にお薦めしても、なかなか馴染みがないようで……」と、うつむき加減な返事。
 旬の素材を使った「小菜」、「煲仔」類、それも香港島ではなく九龍の福臨門スタイルの「家郷菜」を楽しみにしてました。
 ですが「素材の調達が……海鮮の魚介でしたらすぐさま調達できますが……」
 なんてことで、結局は海鮮の魚介を主体にしたコースになった次第。
 とはいえ、野坂さんを通じて届いた呉百駒師傳のお薦め料理の中には福臨門でもおめにかかったことのない料理がいくつかありました!

2010/06/16

「さ~ちゃん、などと呼んでいただければ!」 初音家左吉

 関西の落語育ちの私、ボブ・ディランやビートルズとともに小米(後の枝雀)の爪先着地の危ういスリルを体験してきた世代です。
 東京にやってきて矢吹申彦の誘いもあって東京の落語にはまり、東横落語会はじめホール落語、さらには朝太(後の志ん輔)らの若手の会に通ったことも。

 年月を経て、芸術祭の審査員を務めるようになったのをきっかけに、落語熱再燃。たまたま担当していたラジオの番組の語り手に落語、講談などの演芸系の若手を求めていたこともあって、二つ目、真打若手の会などにも馳せ参じました。

 寄席にしろホール落語の会にしろ、開口一番を務める前座や二つ目の噺にはいろいろ制限有りなんだそうですが、同じ噺を繰り返し耳にしていても「あ、こいつ、面白い!」なんてアンテナがぴくぴく。ライブハウスで名もない新人バンドに惹かれる、なんてのに通じます。

 そんなことで最近、興味津々なひとりが初音家佐吉。
 昨年夏、新宿末広亭にふらりと出かけた際、ウチのかみさんが虜になっちゃった、なんてことを紹介した初音家左橋師のお弟子さん。

 実は左吉くん、ロックンロール好き。
 左吉の「左」は師匠の「左橋」から。「吉」の字は矢沢永吉の「吉」にちなんだものと自称。
 http://www.rakugo-kyokai.or.jp/Profiles.aspx?code=438

 「そうなんですよ、あいつ、ロックンロール好きでね」とは左橋師。
 ですけど左橋師、矢沢永吉もなんとなく知ってる風、とまあどうやらロックンロール事情には疎い様子。

 ロックンロール好き、なんてことで興味を持って、いろいろ左吉くんとやりとりするようになって判明したのは、コアなロックンロール・フリーク、ってことでした。
 矢沢永吉の名を出してるのは表向き、わかりやすからなんてことだったみたいです。
 でも、落語好きな人に矢沢永吉って、どれだけ通用すんのかなあ……。

 左吉くん、もちろん、矢沢命。ですけど、清志君(って忌野清志郎)命でもあり、仲井戸麗一だけじゃなく三宅伸治、さらにはブルーハーツからクロマニヨンズにいたる足跡まで熟知なんて話に「お、こいつ、おもしれえ!」と思って当然でしょう。
 おまけに当人に色々話を聞くまでもなく、目指すは「ロックな落語」なんてことがひしひしと伝わってきます。そんなところが頼もしい。応援したくなります。

 で、このたび、落語協会のインターネット落語会の6月の中席に登場。
 http://www.rakugo-kyokai.or.jp/
 YOUTUBEなら以下のサイト http://www.youtube.com/rakugodcc#p/c/2448C7455A59BDA1/0/WsKM_Js1mp4
(残念ながら、以上、中席の左吉くんのりンク2件、外されちゃいました)

 リーゼント風ヘアーで噺に取り組む左吉くん。
 頭の中、覚えこんだ筋書き、なぞりながら、自分らしさを織り込みながら、実直、生真面目に噺を披露。
 どこかロックンロールなの?なんて突っ込みありそうですけど、しっかり基本は抑えて「ルイジアンナ」。まっつぐなところに、ロックンロールの道は外さない!
 なんて意気込みとその人柄が滲み出てるところが、頼もしいです。

2010/06/14

初夏の味 10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の7

  トレイに並んだ品々から好みで選べる「本日凍甜品/本日のデザート」。
 私が選んだのは画像真ん中の手前の「蓮子露」。蓮の実のすり身を素材にした言わば汁子。そこにゴマ餡入りの団子が二つ。
 冷たいのと(凍)と熱いの(熱)のがあって、もちろん「熱」を所望。
「それ、よさそうですね。私は冷たいのがいいなあ。それと「マンゴプリン」!」
「え、え!? デザート二品?」
「だってここの「マンゴプリン」旨いもん!」なんて方もいらっしゃいます。「私もそうしようかな。それに私も「マンゴプリン」!
さすがの私もデザート2品はお手上げ。負けました!
 そして登場したのが毎月恒例となった久保田さんの昔懐かしい「懷舊点心」。
 「金木犀の風味漬けをした小豆餡の点心です」と山下さん。

 私、初体験。表面を覆う透明な膜に浮かび上がる金木犀。見かけは日本の葛饅頭という趣きですけど、葛饅頭の表面って半透明ですからちょっと違います。まるで日本の生菓子みたいな点心に出会うのは初めて。

 その透明な膜の下。「さつまいもでございます!」と山下さん。 さつまいもってことは「蕃藷」。と言われれば、その色合い、さつまいもそのまま。 その美しさにもったいない、なんて思いながらひと齧り。 甘味があります。ですけど、これ見よがしな甘味じゃありません。素朴でひなびた味、風味がします。大地に根ざす根菜の根太い力強さ、ふんばりが浮かび上がる。

 さつまいも。広東料理では意外に素材として使われます。潮州料理に多いような印象がありますが、香港で出会うさつまいもの多くはその素朴で力強く、踏ん張りのある甘さを生かした点心類。さつまいもの賽の目切りやらぶつ切りが糖水の素材としてごろごろ、なんて感じの昔懐かしい点心の類、街中の甘物屋で出会えます。

 この点心「金著香桂花」というのがその中国料理名。「桂花」、つまりは金木犀を素材にした料理は無数にあり。点心にも多いです。なんせ「桂花」だけの料理を集大成したウェブ・サイトもあるぐらい。ですけどこの「金著香桂花」は、そこにもありませんでした。

 さつまいもの純で素朴な味、風味ってことだけでなく、中味の餡とも一体となって日本の上品な生菓子に匹敵する旨さ、奥深さ。私、初体験だった「金著香桂花」の気品と洗練に目を見張りました。
 そして登場した「蓮子露」。
 冷たいのじゃなくて温かいのを頼んで大正解。あ、私には、かもですね。
 温かい点心はなんだかほっと心和みます。なんといっても胃にやさしい。舌を撫でるざらっとした触感。ふっくらでっかい「圓子」からはじめるようにとびだすゴマ餡のこくのある濃密、濃厚な旨さ。

幸せを感じます。

2010/06/12

初夏の味 10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・飯は「鮑汁炆米粉/ビーフンの鮑ソース煮込み」。 
「鮑汁って何でしたっけ?」
「あ、それ、干し鮑の戻し汁ってことなんですが」
 もっとも「鮑汁」、干し鮑を調理する時に干し鮑の戻し汁だけじゃなくて鶏肉やら豚肉やら色々加えソースを作ります。それも「鮑汁」と称されます。
 そういえば去年の10月、「鮑汁炆伊面」が締めくくりの面・飯の一品として登場 今回は「伊面」にとって替わって「米粉」が主素材。それ以外に、赤いパプリカ、セロリ、もやし、エシャロットなどの具材もたっぷり。
 その味付けが「鮑汁」。こくのある旨さが特徴です。なんてことからすると、もしかして「鮑汁」、干し鮑を戻したときの煮汁だけじゃなく、干し鮑の料理に使うソースを使ったものかも。それに甘味が顔を覗かせる。
 「伊面」なら、ほどより噛み応えがあって、ソースの味が面に絡んでます。
 「米粉」の場合にはすっと歯が入る柔らかさとるつるつるとろとろの感じで、喉越しのよさも味わえるという寸法。でも「伊面」よりも「米粉」の方が「炒」の技術、「鍋」使いの力量を問われます。
 というのも「米粉」、生にしろ戻したものにしろ、表面に水分が付着していて、ベタ感あり。そのせいで手際よく炒めないことにはだまになっちゃいます。それを防ぐには油脂を使って、強火で炒め、水気、べた感をとばします。ですけど、油脂たっぷりだと、火の強さ、炒めの手際よさが課題、求められます。そう、水気は飛んでも脂っけたっぷりのベタベタになっちゃいますから。

 その辺りの油脂の使い方、その沸点を見極めた火、鍋の使い。「米粉」の水っ気をとばし、なおかつ、油脂のベタ感もなく、強火で炒めながら、焦げを作らない。袁さんの炒め、鍋使いの技、改めて再認識!
 「これ、旨い。ビーフンの炒めものなのに旨い!」
 「決め手はこの「鮑汁」ソースでしょうかね」
「それより、炒め方、すごいですね。ビーフン炒めてもなかなかこうはならないもの。さすがプロの技です」 なんて声が上がります。

2010/06/11

初夏の味 10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 話、戻って「10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の5」。
 日本では決して味わえない広東風味をそのまま伝える「焼鴨斗茄瓜/茄子の焼鴨蒸し」に続いて登場したのが「蒜頭豆豉爆蜆/あさりの豆豉炒め」。
 この料理、香港で海鮮を看板にする料理店、ことに大衆的な海鮮料理店ではどこでも看板料理の一品になってます。中でも有名なのが先月「椒鹽天使蝦/天使えびのスパイス揚げ」で紹介した銅羅湾の台風避難所の船上屋台、水上夜総會でのそれ。「避風塘炒辣蟹」と並ぶ船上屋台の看板料理になってます。

 ちなみに香港の海鮮料理を看板にする広東料理店で出会える貝類、大衆的な店ではアサリ(蛤仔)、アカ貝(螄蚶)、マテ貝(蟶子)、バイ貝の一種の「花螺」。高級店になるとマテ貝、タイラギの一種の「帶子(櫛江珧/江瑶)」、ミル貝(象拔蚌)、大小のホラ貝(响螺)が加わります

 アカ貝は醤油、紹興酒などに漬けたものを見かけました。上海料理店にもありましたっけ。バイ貝の一種の「花螺」はかつて大衆的海鮮料理で評判を呼んだ大佛口食坊の看板料理だった辛味たっぷりの「辣酒醤煮花螺」なんてのを思い出します。

 高級店での大ぶりの「响螺」の値段は天井知らず。ミル貝、香港ではカナダからの輸入物が大半だったはずですが、それまた結構な値段。近隣の養殖物やタイ、ベトナム近海など東南アジア産の天然の輸入物が主流のタイラギ、最近はニュージーランド産の天然ものが流通しているマテ貝などもやはり時価ですから、当然、値段はそれなり。

 そうしたことからするとアサリの値段は比較的安価、というのが一般に広く浸透し、したしまれてきた理由じゃないでしょうか。その調理方法、味付けは大蒜、豆豉、新鮮な唐辛子などとともに一気に炒め合せたもの。ピーマン、玉葱、葱頭などの野菜類を加えるというのも一般的。さらに、最後はとろみをつけて仕上げ、一丁上がりという次第。 
 そういえば今回の「蒜頭豆豉爆蜆/あさりの豆豉炒め」、袁さんの料理にしては珍しく見た目、明らかにとろみの付け加減が多めの感じ。
避風塘でテーブルをしつらえた船に横付けし、さっさとてきぱき海鮮料理の数々を作ってくれる船上屋台での「あさりの豆豉炒め」を思い出しました。
 
 その具材、殻つきの浅蜊、香味野菜は大蒜、生姜、葱、玉葱、エシャロット、それに赤と黄色のパプリカにピーマン、韮といった内容。その切り揃え、大蒜はひとかけがごろ。赤のパプリカ、玉葱は細めの短冊切り、つまりは「片」。韮は長目。それ以外、各種野菜ひっくるめて粗微塵の「粒」の感じ。ですが、橋詰さんが板をやっていた頃とはびみょーに切り方が違います。

 浅蜊は殻付きのままのものもあれば、殻から身が外れたものもあります。食べやすいのは殻から身が外れたもの。ですが、やっぱり身が殻付きのままむしゃぶりつきたくなります。多めの加減のとろみがついた浅蜊や粗微塵の野菜はユルユルの感じで、滑らかな触感でつるり、とろり。大蒜のひり味だけではない辛味が浮かび上がります。それから葱、玉葱、エシャロットとのものと思しき甘味。さらには漬物みたいなひね味、こくのある旨味、風味が浮かび上がります。それって間違いなく「豆豉」によるものでしょう。

 そのとろみ、辛味、甘味、ヒネ味は、なんだか懐かしい。先にも触れてきたように、避風塘、さらには鯉魚門や長洲島の船着場近くの海鮮料理屋で食べた素朴で直接的な力強い味わい、野趣な「あさりの豆豉炒め」を思い出したからです。それも香港の昔懐かしい味、風味、伝統的でオーソドックスな海鮮料理の味に通じます。

 上品で押し付けがましくなく、ほど良い加減の味つけを得意とする袁さんですが、こんな風な野趣な味、風味を生み出す調理、味付けも得意、なんてことに感心。素材の持ち味を引き出すってことを考えれば、納得の行く話です。

 「これ、がつんとくる味だよね。ひりっとした辛味、それに、甘味、旨味があるし、浅蜊の味、風味、そのまま生かされてる感じだし……」と、小皿に取り分けられてもまだ熱々の浅蜊は大好評でした。

2010/06/08

鳥越祭 2010 終わって、あ~あ、夏が来る!

 鳥越祭。終わっちゃいました。
 鳥越祭が近づくまでは気もそぞろ。落ち着いてなんか入れられない日々を送ります。
 宵宮の日、午後には早々とお世話になってる越村邸に。
 到着まもなく装束を身にまとい、出陣の準備。

 午後5時半に小島一丁目の町内御輿は出立。
 越村さんの甥っ子の昌平君やその友人の神田の内村さん、神田の巴家の針谷さん、築地の紀州吉岡屋の大島さん、私の甥っ子やその友人のサイモンが参加、という顔ぶれ。
 町内を練り歩いた後で、小島三町会の御輿が集合し、提灯を掲げて小島三町の連合提灯御輿渡御。
 汗をかきましたが、爽やかな涼風に鯉口の汗も乾きました。

 本社御輿渡御の日。午前は町内御輿で町内を一巡り。新たに昌平君のおかみさん、紀州吉岡屋の若主人とその友人が加わりました。
 昼休みの後、午後にも町内渡御。もっとも内村さん、針谷さん、紀州吉岡屋の若主人はそれぞれ仕事やらいろいろあって、途中退場。本社には参加せず、というより参加できずってことで、大いに悔しがっていました。

 三時過ぎには本社御輿渡御のために集合。
 本社御輿の渡御には、越村さんを紹介してくれた川越の小野食品の小野哲専務、番頭の豆助、以前小野食品勤務で現在は群馬で豆腐屋を親子で営む川辺君を帯同。そこに石原町の「豆源郷」の横井さん、宵宮来の昌平君、私の甥っ子、その友人のサイモンというのが越村家軍団の顔ぶれ。
 本社渡御では一昨年知り合った地元の岡本さんを御輿の側に見っけて、交代を何度か繰りかえしました。そして、鳥一(鳥越一丁目)への受け渡し前には、岡本さんと前後に並んでゴール。
 後になって振り返ってみたら、小島一丁目の本社渡御の受け持ちの半分以上、御輿に触れいたことが判明。
 本社渡御が終わってしばし休息。疲れました。肩の痛みはともかく、三社で左足の親指を踏まれて爪がはがれたままだったんで、だましだましの左足、それをかばった右足の甲やらふくらはぎが痛みます。

 本社御輿の渡御話に盛り上がった後で、サイモンのリクエストに応えて昌平君が津軽三味線を披露。恒例の行事なんですが、今年は越村さんが昌平君の三味線をバックに40年ぶりに「ソーラン節」はじめ数曲、かつて鍛えた民謡の喉を披露なんてハプニングも。
 それから、宮入りを見学。
 毎年、宮入りでは例年、褌一丁の軍団の御輿つぶしの殴り込みがあります。不謹慎ながらもそれが鳥越祭の宮入りの見所、楽しみです。 今年は宮元に受け継がれてすぐさま、御輿が落ちたり、御輿が通り過ぎてから褌一丁軍団と地元の警備、さらには警備の警官とのいざこざがあっちこっち。
 びしばし、どすん、ぐすん、ぐげ、ばきばき!なんて音が耳元に届くぐらい激しいやり取りが目の前で繰り広げられました。その途端、突如荒波が襲い掛かったように、人並みは一気に後ずさり。生まれた隙間で乱闘が繰り広げられる、といった次第。
 かくして、今年の鳥越祭はおしまい。
 「あ~あ、終わっちゃった!」と、私はため息仕切り。
 もうすぐ夏がやってきます。

2010/06/05

初夏の味 10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 そして「焼鴨斗茄瓜/茄子の焼鴨蒸し」が登場!
 これが旨かった。いかにも広東料理という趣きです。
 広東料理ならではの味、風味を堪能しました。 素材は茄子。しょうがの千切りとともに蒸した料理ですが、その味付け、「焼鴨」の焼き汁を使ったもの。「焼鴨」は窯の中に下拵えした家鴨をぶら下げて焼きます。そして、焼きあがった「家鴨」、ぶら下げて、あるいは、まな板の上でさばきます。

 ぶら下げて身をさばけば、腹と股の間あたり、皮の内側、身からしたたり落ちた家鴨の脂がたっぷりたまってます。腹と股の間をさばけばそんな脂分をふくんだ肉汁がほとばしる。それだけを皿に受け取って、面にまぶして食べる、なんてのも実に乙なもの。

 そんな脂分たっぷりな肉汁だけじゃなく、袁さん窯で焼いた「家鴨」の「焼鴨」の胸肉をこそげとり、ミンチ状にしてから、脂分たっぷりな肉汁に混ぜあわせ、皿に並べた茄子の上に注ぎかけ、蒸したのがこの料理。

 茄子にしみこんだたれの味は、「焼鴨」の脂分をふくんだ肉汁の旨さだけでなく、濃厚な旨味、コクがあります。「乳鴿」ほどではないにしても、血の味、鉄分を含んだくせとコクのある独特の「家鴨」の肉の味、旨味、風味のエッセンスを凝縮した濃い味。 それに、何か調味料をプラスアルファ。蠔油の味を感じました。

 ともあれ、「焼鴨」の脂分を肉汁と、「家鴨」の胸肉が醸し出す味、風味。 甘味があります。こくのある濃厚な甘味。砂糖とかを加えない素材そのものが生み出すコクのある甘味。「焼鴨」の脂分、肉汁が入り混じったコクのある甘味は、伝統的な広東料理に特徴的なものです。

初めて食べた料理。なのに、すごく懐かしい味がします。昔ながらの広東料理特有の味、風味があるからです。その最良のエッセンスを生かした見事な一品!

 「この料理、食べたことある?」と袁さん。「いや、初めて!窯で焼いた家鴨や鵞鳥の股を切り裂いてほとばしる肉汁を使った料理は食べたことがあるけど、それよりも旨味、風味がある!」

「そうでしょ?「焼鴨」の股のところを裂いた時の肉汁、旨いけど、それだけじゃなくて、胸肉を擂り潰して、加えたから。私が考えて工夫したオリジナルの料理!」と袁さん。
 なるほど。初めて出会った料理なのは当然な話。

 家鴨や鵞鳥の股を裂いてほとばしる肉汁を使った料理よりも、さらなる旨味、風味があります。なんてところは袁さんの工夫によるものだったのですね。
 初めて食べた料理なのに、懐かしい味なんて思ったのは、こくのある甘味を特徴とする味が、伝統的な広東料理のそれ、だったからですけど、そんな味をベースに、袁さんが創意工夫を凝らした料理でした。
 東京で、日本で、こんな味、風味の料理に出会えることなんて滅多にない。いや、絶対にないかも。

2010/06/03

初夏の味 10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の3

「湯(スープ)」は「花生眉豆煲鶏脚湯/落花生と眉豆と豚すね肉、鶏脚のスープ」
素材は落花生、眉豆、もみじ(鶏の爪)。それから豚すね肉とあります。
豬踭なのか豬展なのかは不明。今度、袁さんに尋ねてみます。
豚すね肉がだしの要なのは明らかです。肉の旨味。それに皮付きではありませんが筋の部分にはコラーゲン質がありますから。
これまでにスープやら炊き込みご飯で何度も登場のもみじ(鶏の爪)からはコラーゲンがもっとたっぷり出ます。
 そこに落花生、眉豆の味が加味されます。落花生は揚げて食べることもありますが、こうやってスープの素材にすることもあり。油脂分が多くて、甘味、旨味、コクを増します。
 そして眉豆。これまでにも登場してきましたが、その正体、関西で言うインゲン豆。それが一般的には藤豆、なんてことだそうで。豆らしく澱粉質をたっぷり含んでいます。
 この「花生眉豆煲鶏脚湯/落花生と眉豆と豚すね肉、鶏脚のスープ」。
 ひと口目、豚すね肉の旨味。もみじのコラーゲン質のとろみやこくを感じながらも、すっきりさっぱりの印象。
 長時間、老火(とろ火)で煮込んだこの種のスープに特徴的な穏やかで優しく、口当たりの良い味わい。
 さらに口に運ぶと、豆の味がくっきりと浮かび上がり始めます。甘味、それに澱粉質なんですが、素朴でひなびたほのぼのしみじみ系の味、風味。それも、大地にしっかり根を張っているような力強さがぐんぐんとみなぎりはじめる、といった趣です。
 実は落花生、眉豆にもみじを組み合わせて長時間煮込むスープは、本来は冬の最中に体を温めるために作って食べる、というのが香港、広東地方では一般的。
 豆の味にはクセがあります。干したものですからひなびた味、風味がある。それを和らげるために、蜜付けの棗の「蜜棗」、無花果(いちじく)はじめ干した果実を加え、甘味と風味を加えたりします。
 今年、春になっても温かさからは程遠く、五月になっても冷気はそのまま。例年とはいささか異なる今年の季候、ここ最近の日々からすれば、このスープはうってつけ。食べ進めれば、じんわりと体が温まってきます。
 季節、時候にあわせて素材を按配し、とろ火で煮込む「老火湯」の真髄、極意をしみじみと味わいました。

2010/06/01

初夏の味 10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いて「喬菜頭炒蝦仁/ラッキョウと芝エビ炒め」。
 日本語の料理名に「ラッキョウ」とあるのに「そうだ、ラッキョウの季節!」なんて思い浮かべました。
 はたして、目の前に現れたのは「ラッキョウ」じゃなくって「エシャロット」。中国料理名を再確認したら「喬菜頭」とあります。
 昨年の9月に食べた「喬頭泡干魷/一夜干し烏賊とエシャロットの炒め」の「喬菜頭」のことを思い出しました。 http://kitami.blogspot.com/2008/09/blog-post_30.html
 この「喬菜頭炒蝦仁/ラッキョウと芝エビ炒め」、芝海老、エシャロット、大蒜の茎の「蒜苗」、紫たまねぎ、エリンギが素材。
 塩味炒めで、いたってオーソドックな海老の炒め物。エシャロット、大蒜の茎、紫たまねぎにエリンギという素材の組み合わせ。なんといっても芝えびの旨さが際立ってます。
 芝エビのぷりっとした噛み応え、噛み締めると浮きたつ甘味、旨味。芝エビそのものの旨さ、その持ち味、旨味を引き出す下拵え、火の通り。ジャスト!の調理が施された芝エビの火の通し加減の見事さ。
 おまけにエシャロット、大蒜の茎、紫玉葱、エリンギのそれぞれの個性、持ち味、旨さ、風味が生かされてます。

 主素材と副素材の組み合わせも重要ですが、一気呵成に炒めるわけですから、素材の火の通りを考えた素材の切り方などの下拵え。主素材と副素材、香味野菜の分量とバランス、按配の見極めも中華料理の炒め物で最も重要なポイント。しかも、ひと皿に盛り付ける際、過不足ないバランスの取れた素材の分量が中華で大事な「色・香・味」を生む要因のひとつになるからです。

 なんでもかんでも鍋にぶち込んで一気呵成に炒め合わせも、「色・香・味」の三拍子、鍋の気の「鑊氣」のある美味しくて香り豊かな炒めものは作れません。しかも、火の通りや見映えを考えて、素材の厚みや細さ、長さなどを丹念に切り揃え、素材によっては下茹でしたり、油を通した上で、火の通りに難いものから順に素材を炒めあわせるにしても、やはり、素材の分量、バランスを見極めておく必要があります。

 家庭なんかではちょいと余分に材料を用意したり、余分に切り過ぎたりすることも多いはず。そんな時、余すのは無駄、もったいないからって「ま、いいか!」と、分量を多めのまま炒めあわせると、火の通りが狂います。素材の分量の組み合わせも狂って「色・香・味」を損ねる結果になります。
 素材を余分に切り過ぎたからといって、余分な素材をそのまま加えてしまうのは、ぐっと我慢。な~に、他に使い道、必ずあるはずですから。そのぐっと我慢の分量の按配、バランスが、美味しい炒め物を生み出します。

「こういうエビと野菜の炒め物って、ここで食べるといつも感心しちゃいますよね。すごくオーソドックスな料理だし、家でも出来そうなんだけど、素材を揃えてやってみても、こんな風に上手くいかない」
「エビのぷり感とか、甘味、旨味の引き出し方とか。炒め方だけじゃなくて、下拵えも肝心なのかな」
「エシャロットのヒリっとした感じとか、玉葱の甘味とか、大蒜の茎のクセのある香りとかも、はっきりわかりますね!」
「けど、このエリンギ、きのこだけどそんなに香りとか風味ないね」
「そそ。でも、触感と味、他の野菜とのバランス、組み合わせからすると、スンナリ収まってる感じじゃない?生椎茸やしめじだと、独特のクセがあるし、舞茸なんかだと香りがあるけど、炒めるとあくがでませんか?それからすると、エリンギ、触感が良いし、他の素材、味つけに寄り添う感じで……」とまあ、皆さん、観察が実にするどい。
 いたってオーソドックな芝エビと野菜の炒めもの。ですが、その味わい、旨さ、香りに、皆さん感心。またまた袁さんの腕、技、力量を見せつけられた一品でした。

2010/05/31

初夏の味 '10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 今月は無事セーフで5月の「赤坂璃宮」銀座店報告。
 実はそれまでに「赤坂璃宮」番外編!というのがあって、とっくに執筆済。ところがいろいろあってアップ出来ないまま日が過ぎてしまいました。アップしてたら今月の「赤坂璃宮」銀座店報告、またもや来月にずれ込みそうなんで、とりあえずは先に月例報告。

 まずは「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。
 画像でも明らかなように基本的な内容、組み合わせはほぼ従来通り。ですが、レイアウトがが変わりました。ものによっては切り方も変わりました。
 前菜担当、平林君に代わって三ヶ月目。その見せ方、並べ方、レイアウト、これまでの2回とうって代わってしっかりと自己主張。その意気込みが頼もしい。 まず、右から「ほうずき」、牛脛肉の冷製の「牛展」。
 いつもは皿の右から中央にむかって並べられていた焼き物類。すべて皿の左に移し変えて「豉油鶏」、「叉焼」、「焼肉」と並びます。
 なかでも「焼肉」の切り方、その厚み、以前よりも増して堂々と存在を主張。
 皿の奥、野菜は大豆、蕪、紅芯大根。

 「ほおずき」がいいです。「ほおずき」ならではの独特の味。酸味の後に苦味、特有のえぐ味があって、素朴でひなびた甘味、風味がジンワリ浮かび上がります。まさしく「初夏」を感じさせる風情のある味、風味。
 その隣の「牛展」。惜しいことには肉が固まらず、おまけに切り方も少々厚みがあり過ぎて、ぐじゅっとした触感。味も含めて、なんだかしまりがない。ゼラチン、コラーゲン質がいささか足りない感じ。それに、味付け、香辛料はしっかり。なのにメリハリがなくて、キメが甘いのと香り、風味が乏しい。おまけに、切り方が厚い分、肉がグジュ、しかも、噛み締めればもそっとした触感。なんだか中華味のコンビーフ風。 味付け、調理、香り、切り方に課題あり、かな。

 それに対して焼き物3種。「豉油鶏」、「叉焼」はアベレージ。「焼肉」の味付け、ちょいと塩味利きすぎ。ですが、味のメリハリ、それにその大きさ、切り方、厚み、これまでとがらり一変、「焼肉」をしっかり味わえました。
 大豆が嬉しい。ちょっぴりの蕪、紅芯大根は、切り方が素朴で、味付けを含め、もうひと工夫あってもとも思いましたが、口を変えるにはOK!
 平林君、頑張って!

2010/05/25

こがねもち

 旧聞に属する話ですが、4月の末、東松山の農業、加藤紀行さんから丸餅が到着。
 ここんとこ野菜の便り、全然なし。なんてところに丸餅。なんでも4月の終わり、豊饒を祈願して餅を作り、お供え、という風習があるそうで、そのおすそ分けにあずかった次第。
 関東では餅、のし餅ですよね。それをわざわざ手間隙かけて丸餅にして送り届けてくれました。感謝、感激。そ、餅は丸餅に限ります。
 ところが、今回、届いた餅、一個の大きさにたまげました。

 届いたその日は、早速、お雑煮。昆布とかつおでしっかりだしをひきましたが、冷蔵庫を覗いてみても「かしわ」(って鶏肉ですが)の澄まし仕立にするのに必要な肝心の美味しい「かしわ」の蓄えなし。
 しかも、野菜は水菜と人参だけ。

 白味噌仕立て必要な焼き豆腐もなければ、里芋の買い置きもなし。
 ということで、水菜、人参だけの簡素な白味噌仕立てに決定。

 白味噌は堀河屋野村の白味噌。
 甘味があって、なおかつしっかりの塩味。こくがあって旨いです。そんな白味噌仕立ての汁を用意しておいて、丸餅、オーブンで焼餅にします。

 ところが、いつもよりサイズがでっかいもんで、焦がさないようにこまめに焼き具合の按配見る必要あり。ぷっくりふっくら皮をもたげて餅が膨れ始めたら菜箸で割れ目を入れ、焼きとほどよい焦げ目付けを按配。それにしてもでっかいんで、焼くのに一苦労。

 焼けた餅、ひとまず皿にとって、鉢の真ん中に移して熱々の白味噌の汁を注いだら、じゅわっと焦げが弾ける音。 焦げの香ばしさが引き立ちます。
 でっかい餅をそのまま頬張れば、パリっとした表面に汁のしっとり感が入り混じり、旨さが口中に広がります。  
白味噌仕立ての汁が旨い。
それにもまして、餅が旨い。
餅の素材、原料は加藤さんが作ったもち米(糯米)の「こがねもち」。
以前にも紹介しましたが、加藤さんのもち米は福臨門御用達。我が家でももち米は欠かせません。 あれよあれよと言う間になくなります。

年末から年初にかけては、腸詰を具にした炊き込みご飯の腊味糯米煲仔飯。もしくは、腸詰、干しえび、干し貝柱、するめ、干ししいたけなどを刻んで炒め合わせて、炊くか蒸すかした糯米に混ぜ合わせた糯米飯。それとも、だしを足しながら糯米を炒め、具を混ぜ合せる生炒糯米飯。

 たまに赤飯にもしますけど、そのままもち米を炊くことも少なくない。
 たとえばタイ・カレーを作った時には、粳米のご飯よりももち米のご飯のほうが相性が良いですから。
 そして、豆が美味しいこの時期、頻繁に作るのが「豆おこわ」。
  豌豆、グリーンピースを粳米に混ぜ合わせて炊き込む「豆ごはん」も美味しいですけど、糯米と一緒に炊き込む「豆おこわ」だと、味、風味は格別。
 その豆、採れ立てで生でも食べられるぐらい新鮮なのがいいですけど、その入手が難しい。ですが、加藤さんの「こがねもち」と炊き合わせると豆の鮮度も問題になりません。「こがねもち」のねばり腰の強さが豆の味、風味を引き出してくれます。

 そうそう、本格的な「豆おこわ」、糯米を長時間水に浸し、蒸して作ります。ですが、思い立ったら即作って食べたくなるせっかちな私、炊く前にもち米に水を吸わせますけど、時間は簡略。しかも、蒸すんじゃなくて、普通に土鍋で炊き上げます。というなんちゃって「豆おこわ」ですが、それでも旨い。おかずなしで何杯もお代わり。

 切なる願いは、美味しいもち米の「こがねもち」を作る加藤さんが、豌豆、蚕豆、枝豆、各種の豆を作ってくれないかなあ、なんてこと。「こがねもち」との強力なコンビになりそうです。早い話、加藤さんへのおねだりです!

2010/05/23

祝開店!広味坊 成城学園店!の3

 そして「汁なし担々麺」。
 たっぷりの野菜の上にもやし。その上に挽き肉を味付けして炒めた肉末がどってりの感じで乗っかり、その上には香菜が。
 さらに、お粥なんかと一緒に食べる揚げパン状の油條の薄切りが、随所に散らばっているという按配です。

 香菜と肉末の奥から面を探り出したら、意外なくらいに太い。
 讃岐うどん風の太さ。 しかも、つるつると表面が滑らか。喉越しのいい感じ。面に具、タレの味がしみ込むよりも、タレが絡まる感じ。
 そのタレ、結構、濃厚で塩味が重い。いくつものミソを混ぜ合わせて創ったたれなのは歴然です。
「ね、このタレ、創くんが工夫して作ったの!」
「ええ、あの、四川に行ったり、あと、北京とか中国とか他でも色々担々麺を食べて、社長と一緒に工夫しながら作りました」 と創料理長。
 「結構、色々な醤(ミソ)が混ざってるみたいで(味が)濃厚なんだね」
 「芝麻醤、豆瓣醤、海鮮醤、蝦醤。それに蒜油、自家製の辣油、黒醋、花椒などですけど」
 海鮮醤に蝦醤、なんてところが五十嵐久夫流ならではと思えるところです。やっぱり広東系の料理人、なんですね。もっとも、私には少々ミソ味が濃く、塩味がきつくて重い味。ここに乳酸醗酵系の味が少々加われば、酸味が……なんて思いましたが、ミソ味が重なってるから、効果の程は不明。

 「あの、すんません、漬物、何かない?榨菜でもいいですけど、榨菜なら微塵切りにしてくれませんか?」と、どこまでもわがまま。自己主張が止まらないオヤジです。はたせるかな榨菜の微塵切り、混ぜ込むと、さっぱり感。

 「広味坊 成城学園店」の「汁なし担々麺」、本場四川風というより広味坊独自のオリジナルメニューと納得。実は、ミソ味濃厚、しかも、うどんに似た太めの面、なんてことで思い出したのは、上海で食べた拌面のこと。やはり面はうどんみたいに太くって、具はミソ味の肉そぼろでした。それは、担々麺というよりミソ味の濃い上海炸醤面という趣き。

 日本で上海料理と言えば砂糖と醤油をふんだんにつかった甘辛味なんてイメージ濃厚ですが、各種の味噌、料理に使います。ですから上海小吃、大衆的な食堂、屋台店同様の簡素な店構えの麺の専門店では、肉そぼろはじめミソで味付けした具を乗っけた汁なしの和え麺の拌麺があります。
 そういえば上海の焼きそばの炒麺も、小麦粉を捏ねて打って切り分けたうどん状の太さのものが主流。街中に具なし、味付けはたまり醤油のみの面の専門店、なんてのもありました。

 80年代半ば、揚州、南京に旅した際、最後の宿泊先が上海。市場にでかけて面の専門店、それに餅の専門的をみつけ、めぼしをつけておいて、帰国日の翌日に購入。ところが、餅関係は現金でもOKでしたが、麺の専門店では当時まだ配給券というか購入のために切符が必要。たまたま地元の人が一緒だったのでその難は逃れましたが、さらに難問。

 面はひと束、二束ではなく、グラム単位の計り売り。いきなりの話に面の目方、分量がわからない。手っ取り早く1キロオーダーして、知人と分けました。そういや、北京に旅行したさい、餃子を頼んだら「何グラム?」なんて言われて麺、じゃなかった面くらったこともありました。

 日本に持ち帰った上海のうどんそのままの面、早速、調理して食べましたが、もちもちの触感、捏ね具合、打ち具合、粉の旨さが実に絶妙。舌をうつ旨さでした。こんなことなら2キロ買っておければよかったと悔やまれました。

 ところが翌日の夜、冷蔵庫にしっかりしまっておいた残りの面、調理しようとしたら、うっすら黴が付着してました。保存剤などナンもなしの面だとわかって感心しきり。けど、もうあの旨さは味わえない。
 でも、欲をだして2キロにしなくってよかった、なんて複雑な思いにかられたことを思い出します。

 話戻して「広味坊」成城学園店」で食べた「汁なし担々麺」。ミソ味仕立ての具で和えた上海の拌面に、辛味、山椒の痺れ味を加味したものだ、ってことに気づきました。
 そういえば「広味坊」には「河粉」を「きしめん」に置き換えた面料理があったことを思い出しました。 幅広米粉(ビーフン)はすでにタイ産、ベトナム産のものが入手できた頃ですが、あえてそれらは使わずに「きしめん」に素材を置き換えて料理を展開。

 「河粉」を「きしめん」に置き換えるなんてことは日本ではよくある話。
 「広味坊」では調味、調理にひと工夫。この「汁なし担々麺」をつるつるの讃岐うどん(風)に置き換えたのも同じ発想かも。そうしたあたりも五十嵐久夫さんならではのアイデア。創君も納得してのことでしょう。

 あわせてスープを碗に少しもらいました。「ふかひれと黄ニラ面」、「鮑面」、「雲呑面」に使う基本のスープ、だそうで。独自の工夫、ありありと伺えました。
 「これ、以前の千歳烏山で出してたスープと違うでしょ?だしの作り方、なんだけど」
 「ええ、あの、社長と一緒にいろいろ考えまして……」
 「基本は鶏系、みたいで、手羽先やもみじも入ってる感じだから。ほらコラーゲン質特有のゼラチン質、それに、独特のこくがあるでしょ。それだけじゃなくてなんだか動物性の肉の味、鶏系じゃないってことね、豚の腿肉とか使ってない?そうだ、牛のすね肉のような特有のクセも感じるなあ。それに火腿(中国ハム)みたいなんだけど、それに似た感じの肉、塩蔵肉とか醗酵肉……でも火腿じゃないんだよな……火腿特有の醗酵の味、風味じゃないから……」
 「あ!それは、あの、生ハム使ってるからじゃないかと思うんですけど。火腿じゃなくて生ハムなんです!」と創料理長。

 生ハムはともかく、牛すねらしき具材を大地魚とか干しエビ、干し貝柱などの海鮮の干貨ものにすれば、香港の面粥店に通じるだしの味。ですが、そこまでくだけた感じじゃなく、動物系のだしの感じがするあたりは、香港の市井の広東料理店風、なんてところがおもしろい。

 このスープで、えびのすり身だけじゃなくエビのぶつ切りを潜ませたぷりぷりの触感、味、風味のある「鮮蝦雲呑」を具にした香港仕立て風の「鮮蝦雲呑面」を食べてみたい! 今度、事前予約怠りなく、創料理長にお願いすれば叶うでしょうか。

 それにしても五十嵐久夫さん、色々と面白い工夫をするもんです。
 五十嵐久夫さんの味の体系、広東料理を基盤に創作的な料理を編み出す独自性、その意欲に興味津々。話題の料理人となった娘の美幸さん。調理の技、独特の味覚、味のセンスとキメの確かさは天性のもの。リクツ抜きでそれを実践、という彼女ならではの持ち味、個性があります。ですが、味の基本、素材の組み合わせ、調味、調理のアイデアの元は五十嵐久夫さんにあり、なのは間違いない事実。そんな五十嵐久夫さんの薫陶を受けた創料理長は意欲満々。久夫さんのDNA、しっかり受け継いでいる様子。

 成城という土地柄、実は地元の住民の財布の紐は固い。料理の選択もオーソドックスな保守派好みで、新趣の料理にはさほど感心はなし。「わ、これって成城らしい!」と進取の趣向を好むのは、成城の街にやってくる他所の人なんですね。 そんな進取の店、長く持って1年か1年半。早いときには半年も立たないうちに跡形もなし、なんてところです。

 もっとも、サービスのスタイルはパーフォーマンスを取り込んだ進取の趣きでも、しっかり北京ダック、ふかひれの料理など、馴染みのある料理をメインに据えてあります。その着眼は鋭くて憎い。おまけに千歳烏山や大蔵の「広味坊」にまで足を伸ばしていた地元の顧客も案外多い、というのも大きな強味。

 我が町の食に関して地元の住人の支持が高いのは、蕎麦の増田屋、川上デリの洋風惣菜、惣菜パンの豊富な成城パン(成城ベーカリー)。おっと、マルメゾンとオテル・ド・スズキの洋風焼き菓子も見逃せません。なんてことで、はたして「広味坊 成城学園店」、それらと並ぶ存在になるかどうか。
 五十嵐創料理長、頑張って!