2009/04/28

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして、今月の「麵・飯」は「閩南糯米飯/海鮮入りもち米蒸しご飯」。
 蒸した糯米の上に「えび」、「貝柱」、「いか」のぶつ切りがのっかってます。
 言わば「海鮮おこわ飯」。
 私、糯米の炒飯の「生炒糯米飯」は、何度も体験あり。冬場には干しエビ、するめ、腸詰の「臘腸」「潤腸」、たまに干し貝柱なども加えた「糯米飯」は頻繁に作ります。ですが、新鮮な魚介を具にして蒸した糯米に乗せたこの「閩南糯米飯」は初体験。

 「閩南」ってことは福建、それも漳州あたりの伝統菜、なんでしょうか?そういえば「閩南」の食文化の影響下にある台湾でも各種の「糯米飯」がありますが、そのひとつなんでしょうか?

 それにしても「えび」、「貝柱」、「いか」のぶつ切りが、なんとも豪華、贅沢でリッチな感じです。で、面白いのはこの「閩南糯米飯」のたれ。ニンニク、醤油の味、香りにプラスして、甘くてコクのある濃厚な味、香りを放つものがある。それも「脂っぽい」。
 
 確実に醤油と脂が入り混じった味、香りです。こってり、というまでいきませんけど、独得のこくがある。なんてことから思いつくのは「ラード?」。でも「これ、ラードじゃないなあ!」。
 その正体を知りたくて大藤さんを経由して袁さんに質問。

 そしたら、たれは「海鮮豉油」ってことで、水、生抽、砂糖、老抽、芫茜、なんだそうです。
 「ン!? ニンニクも脂ぽいものもなし?」、なんて思ったら
「蒸した糯米、バターとニンニクで炒め、別鍋で焼いた茸、海鮮を載せて、再び、蒸す」
 なんてことで「そうか!」と納得。

 そうです「バター」。それこそ、脂、甘味、コクのもとだったわけですね。残ってるご飯をバター、ガーリックで炒めたガーリック・ライス、頻繁に作るのに、その味、わすれてるなんて、私も大ボケ。
 ともかく、バター、にんにく、生抽、老抽などで調味したたれの味、風味は大いに食欲をそそります。それに、えび、貝柱、いかなどの海鮮の具材にもぴったり。

 締めくくりの「甜品」は「元朗水果涼粉/フツーツ入り仙草ゼリー」。画像でご覧の通り、果物たっぷり。それに、仙草ゼリーのほろ苦さがマッチングという爽やかなデザート。その料理名に「元朗」、すなわち、香港の新界にある町の名が!なんてのがにくい。
 そうです、今回は料理の内容、素材、調味料にちなんだ「大澳」、「東麗」、「閩南」、「元朗」と、地名を織り込んだ料理がずらりだったのでありました。

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 そして「南乳温公齋/各種野菜の南乳風味土鍋煮込み」。
 日本語の料理名にある通り、各種野菜の炒め煮込みです。「南乳温公齋」の「齋」という言葉が物語るように「精進仕立て」、つまりは肉っ気なし。

 野菜は白菜、筍、しめじ、ミニ・コーン、慈姑(くわい)。さらに、干椎茸、雲耳(きくらげ)、腐竹(干し湯葉)、どれに粉絲(はるさめ)を加え、「南乳」の風味で炒め煮込みした料理です。
 「南乳」は塩漬け醗酵の「腐乳」に紅麹を加味したもの。乳白色の「腐乳」とは異なり、赤い色あいなのが特徴。旨味、こくをつけるのには格好な調味料で、その用途は多種多彩。広東料理でも頻繁に使われます。

 「温公」とは「南乳」の別名というか通称名、ってことです。で、その「温公」、もとを正せばどうやら北宋の儒学者の司馬光の異名、というか尊称、だそうで。それがいつの頃から「南乳」のことを「温公」と称するようになったのか、定かではありません。

 そして「温公煲」誕生の由来については、諸説あり。たとえば、その「温公」がとあるところで出会った「南乳」で味付けした野菜の炒め煮込がいたく気に入り、野菜だけでなく乾燥させた金針菜や雲耳など、野菜よりも高価で旨味、風味のある乾燥野菜素材、さらには茸類などを加えた料理をお抱えの料理人に命じて作らせたのが「温公煲」のそもそもの起源だという説。

 それから、70年代、華僑日報の社長がとある店の料理長に野菜の料理を注文したところ、料理長が作ったのが「南乳」風味のこの料理。社長の名前が「温」だったのにちなんで「温公煲」と呼ばれるようになった、なんて話もあるそうで。

 中国料理で野菜の料理といえば、まず思い浮かぶのが青菜の炒め物というのが一般的じゃないでしょうか。茄子や瓜の類、大根、人参、蓮根、芋などの根菜類も野菜ですが、やはり青菜、葉物のイメージ濃厚。そういえば最近は「通菜(空芯菜)」を「腐乳」風味で味付けした「腐乳通菜」が人気の一品だそうで。そんな青菜の炒め物もいいですが、葉物は白菜のみ。他は、根菜類、乾燥野菜や茸類を加え、「南乳」で味付けし「だし」を加えて炒め煮込みしたのがこの「南乳温公齋」。

 くせのある味、風味の「南乳」がだしの味にこくと風味をプラス・アルファ。その使い方、量の加減、按配も程々で、むしろ「醤油」の味、風味が表立ってる感じで「だし」の旨さが光ってます。それにほんのり甘口。こんな野菜料理、野菜の炒め煮込みをコースに加えるのも一興。広東料理、家郷菜の代表的な野菜料理、精進料理で、家庭でも作られることの多い一品です。

2009/04/26

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 そして「東麗蒸鮮魚/アイナメの冬菜のせ蒸し」の登場に思わず「ぎょ!」。  口をぱっくりあけたあいなめに驚いたわけじゃありません。贅沢で豪華な一品、だったものですから。けど、嫌いじゃないです。というより、大好きです。

 それより料理名にある「東麗」に「はて!」。 東麗って「東レ」の中国名ですが、この料理とは無関係なことは明白。そうだ、深圳に「東麗」という名の保養地があることを思い出した。なんてことで検索してみたら、相次いで出てくるのは「天津」の「東麗」。

 「ン!?、この料理、広東料理のはずだから「天津」でもないだろし……」ということで「どうして「東麗」なの?」と大藤さんを経由して袁さんい問い合わせ。そしたら「「天津」の「東麗」です。「天津冬菜」を使っておりますので」という返事に「成る程!」と納得。

 そうか、迂闊でした。「東麗」は「天津冬菜」の本場だ、ってことですよね。「冬菜」のことを調べた際、そんなことが触れられていたのをすっかり忘れてしまっていたのに愕然。

 「天津冬菜」は細長い形状の「天津白菜」をニンニクと一緒に塩漬けにしたもの。もともとは白菜の塩漬けだったものが、他に香辛料を加味するようになったとか。それもニンニク入りのものが評判を呼び、北方から南方の広東地方、東南アジアの華人社会に広まっていった、といった歴史もあり。そういえば、四川にも「冬菜」がありますが「白菜」ではなく「芥菜/からし菜」を素材にしたものです。
 さて「東麗蒸鮮魚」、白菜の漬物の「冬菜」と共に蒸したもの。「冬菜」の醗酵した酸味、ひね味に、ニンニクの甘味、風味が加味された旨味が味わい深く、風味も格別。しかも、魚は「あいなめ」。

 香港の広東料理店で海鮮料理の「清蒸魚」と言えば、その最上位にランクされるのが「石斑」、乱暴に言い方になりますが「ハタ」の類。日本の広東料理店でも「石斑」の類、珍しくなくなりました。ことに「清蒸魚」にした時のほろり、はらりと身が崩れる肉質の旨さは格別です。

 ですが、日本で「清蒸魚」をやるなら「あいなめ」も悪くない、というのが私の持論。その肉質、しっとり潤んでいて、緻密で繊細。「ハタ」類の「ほろり」、「はらり」の感じとは違って「しゅわ」としていて「じゅくじゅく」、脂がのったものなど舌にとろけるねっとり感もあるところが私にはたまらない。そう、「蘇眉」の触感に似たものがある。

 この「東麗蒸鮮魚」、そんな「あいなめ」の「しっとり」感、「しゅわ」感といった触感と味わい、旨味が実に生きてます。しかも「天津冬菜」のひね味、旨味、風味が合体。さらに、生の赤唐辛子をまぶしてあって、そのひり味もアクセントに。

 「旨い。この緻密で繊細でとろけるような味がいいですね。それに、漬物の味も利いていて、香りがいい。それより、これ、油を使ってあるのに、くどくないのね」
 「あ、油って、広東料理の蒸し魚ってほとんどそうなんだけど、蒸してから、最後の仕上げに熱したたれ入りの油をかけまわすんだよね。だから、その「油」じゃないかな」と、私。

 「私の好みからすると、ちょっと油、加減、多目な感じもするけど、でも、全然、くどくはないよね。油の滑らかさ、甘味とかに「冬菜」のひね味、旨味が加味されて効果的だし。それより「あいなめ」が旨いです!持ち味生かした料理、だよね」と、感心しきりの私です。

 ハタの類はじめ、魚を丸ごと一匹、そのまま蒸した「清蒸魚」もいいですけど、今回のように「冬菜」、それに、中国オリーブの塩漬けの「欖角」、それに黒豆醗酵ミソの「豆豉」などと共に蒸すのもなかなかのもの。

 香港の家庭で作る蒸し魚の料理はこうした漬物などの調味料を使うのが一般的。それに、料理店で家族、親族、友人たちと惣菜の類を食べる時にも、この種の料理を食べます。なんといっても、魚は時価。ことに「石斑」、「ハタ」の類は高価ですから、それよりも値段が手頃で、それぞれに肉質、持ち味の異なる魚を素材して、この種の料理をコースに加えます。

 そういうことでは「あいなめ」は、その肉質、持ち味からいって、この種の料理にぴったり。さらに、広東料理式の唐揚げ料理の「油浸」なんかにもうってつけ。「あいなめ」に限らず、日本近海で収穫される魚を使って広東料理のいくつかの手法で調理する魚料理、もっと日本で広まると嬉しいんですが。

2009/04/23

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の5

それから「腰果鮮珍肝/鶏の腎臓とカシューナッツの炒め」。
 「砂肝」、「カシューナッツ」、それに赤と黄色のパプリカ、アスパラ、筍、セロリの炒め物。塩味炒めで、日本の広東料理店のこの種の料理にありがちなたっぷりのとろみ付きの仕上がりじゃなく、素材の持ち味を生かした味付け、調理なのが嬉しい。

 野菜の切り分け、ざっくり、ざっくばらんなようでいて、その寸法、それぞれの素材の持ち味、触感を見極めた切り方。しかも、ひとつひとつ、素材の持ち味を生かした火の通し。そのあたり、下拵えの「板」と、火を入れる「鍋」の技、息がぴったり。

 「アスパラにしろ、パプリカにしろ、それぞれの味がしっかり、際立っているんですね。素材のひとつひとつの味がわかるもの!」なんて声が上がります。「うん、ひとつひとつの持ち味、旨味、香り、しっかり生きてますよね。それでいて、全部でひとつの味にまとまってる」
 
 「それより、この砂肝、感心!砂肝って炒めるのがむずかしくて、どうしても火が通りすぎて固くなっちゃうのよね。でも、これ、火が通ってて、なおかつ、柔らかいし、食べやすくて美味しい。それに、砂肝ってくせがあるのに、全然、そんな感じがしない!」なん声も上がる。

 砂肝、野菜の下拵え、加えて、炒め方、火の通りの按配。美味しくって風味がある。なんてことないような炒め物ですけど、まさしく「板」と「鍋」のプロの「技」が発揮された一品でした。

 やっぱり、プロにはかないません。

2009/04/22

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 「例湯」は「鮮百合豬展湯/豚スネ肉と百合根のスープ」。
 「百合根」というのが嬉しくなります。日本では秋すぎから冬にかけてが旬。我家でも椀物、茶碗蒸しなんかに使います。ですが、香港だと春前後、海鮮との炒め物なんかに使われていた覚えあり。我が兄弟の周中の百合根の使い方が絶妙だったもので、その印象が強烈に残ってるという次第。

 「百合根」は香港のみならず中国でも盛んに食べられていて、ネットを検索すれば即座にわかることですが、その料理いろいろ登場。秋の終わりから春まで、いろんな料理に使われてます。

 「百合根」は肺をきれいにする効果ありってことで、咳き込んでいたりするときにはうってつけ。おまけに「養顏的效用」の効果もあり。なんて、女性には見逃せないところでしょう。そんな「百合根」と豚のすね肉の「豬展」に、「陳皮」と「蜜棗」を加えて長時間煮込んだのが「鮮百合豬展湯/豚スネ肉と百合根のスープ」。

 いつもの「例湯」と同じく、スープと具は別皿に盛られて登場。白濁したスープは「杏仁」と豚の肺の「豬肺」を煮込んだ「杏仁豬肺湯」を思わせます。  れんげでスープを掬うとお碗の底に寝そべっていた「百合根」が顔をのぞかせる。口に含めば甘い味、それも、くどくなくてスッキリの甘味のあるスープとともに、ぐちゅぐちゅになった「百合根」のざらっとしていてねっとり、ほっくりほくほくの触感が舌にぐんとのしかかる。

 そうです、「百合根」は澱粉質のそのもの、なんてのを実感。しかも、ぼってり感もある。でも、面白いのは、こってりの甘さじゃなくって、すっきり。甘味と同時に、ほろ苦さがあって、「百合根」のこくのある甘さを浮き彫りにしながら、くさどを感じさせない。さらには、すっきり感の甘さには、フルティーな風味も潜んでいる。

 ホロ苦さのもとは間違いなく「陳皮」。このスープの具を並べた皿には、その陳皮も。しかも、案外たっぷり使われてるのが意外でした。このあたり、そう、陳皮の使い方、その分量、しっかり計算ずく。それもレシピ通りじゃなくって、長年の経験による勘が働いた、って感じの細やかさと鷹揚さが同居、なんて感じです。

 そうだ、日本だと「ぜんざい」、あ、そか、東京、関東地域は「お汁粉」ですね。それに、おはぎなんかにしても、小豆に砂糖だけでなく、塩をひとつまみ(って例えですから)で、甘さ、旨味を引き立てる。隠し味の塩使いってわけですが、「陳皮」の効用は、同じ要領。広東地方ならではのものです。

 しかも、日本の「ぜんざい」、「お汁粉」に「おはぎ」の類は、やっぱりこってりの甘さこそが味わいところ。それが、香港、広東人の嗜好だと、こってりじゃなくて、すっきりの甘さってことになるわけです。だから「陳皮」なんですね。

 それに「蜜棗」の効用、効果と言うのも見逃せない。棗そのものはすっきりした甘味、と同時に酸味、それに、苦味やえぐ味もある。それが干したり砂糖漬けにすると、渋味、えぐ味が薄れて酸味を含んだ、だからこそ、すっきりの甘さが引き立ちます。

 というわけで、「百合根」のこってり、ぼってりの甘さとは対照的。なんてところが、この料理に使われている理由じゃないでしょうか。

 「例湯」についてはいつもながらの表現ですが、この「鮮百合豬展湯/豚スネ肉と百合根のスープ」も優しくて、穏やかです。自然で素朴な味、風味、ことに甘味が印象的。、ほのぼのとしていて、心和む「湯」であります。

2009/04/20

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 さて「蝦醬鶏」。「酔湖」の「蝦醬碎炸鶏」は料理名の「炸」の一文字が物語るそのまま「唐揚げ」そのもの。下拵えした鶏肉をしっかり揚げてあって、「ぱり」とした脆い感じよりも「ばり」としたざっくりとした粗い触感、噛み応えなのが特徴です。どちらかといえば「乾炸」もしくは「脆炸」に近い感じですね。で、噛み締めると「蝦醬」の風味がストレートに浮かび上がる、という按配。

 「赤坂璃宮」銀座店の「大澳香酥鶏」は「香酥」という言葉がすべてを物語る。厳密に言えば「香酥炸」、つまりは唐揚げの調理法の一種なのですが「ざく」ではなく「さっくり」の「酥」の感じ。「ばり」ではなく「ぱり」の脆い触感で、鶏肉にはしっとり感もある。歯がすっと入る柔らかさと同時に、歯を少しばかり跳ね返すしなやかな弾力感もあり、というあたりが絶妙です。

 「香酥」は素人は言うに及ばすプロの料理人でもなかなか手に負えない厄介な調理方法です。というのも、下拵えの「板」と揚げ方の「鍋」の「技」が一体化してこそ、完成されるものですから。つまり、素材の味付け、素材を包む衣の加減が難しい。衣が重く、厚くなると、ぼってり状態。

 衣が厚くて、ぼってり状態だと、その分、火を通す時間も長くなり、結果、焦げる一歩手前のチキン・バスケット状態。その為には、薄く、しかも、火を通してさっくりの状態にするための衣作り、下拵えが必要です。かといって衣が薄すぎると、表面こそぱり、さっくりの状態でも、中に火が通っていないまんま、なんてこともありうる。

 さらに、揚げるにあたって、表面さっくり、肉は柔らかく、ジュシーに揚げるには、油の温度の加減、火の扱い、さらには、油から取り上げるタイミングの見極めが、なかなかに難しい。というわけで唐揚げといえば、しっかり揚げられ、衣はぼってり、がっしり。ジュシーな肉汁よりも揚げ油が滴り落ちる、なんてのに出くわすことがほとんどです。

 「赤坂璃宮」銀座店の「大澳香酥鶏」はそうした問題点、課題をすべてクリアー。下拵えと揚げ方の技の見事さに感心します。衣は薄く、さっくりしていて、肉は柔らかく、ジューシー。噛み締めれば旨味がじわじわ滲み出る。そして、風味が立つ。それも独得の風味。なんだかくせのある風味が、喉奥から鼻腔に抜けていく。《芳香》が立ち昇る。

 見かけは唐揚げ。食べて見ると、さっくりの噛み応えで、しっとり感あり。噛み締める内に「これ、なんだか普通の唐揚げじゃない唐揚げだ!」ってことがじわじわと浮かび上がる。思わずこぼれる「これ、美味しい!」のひと言。お互い、顔を見あわせて「うん、うん」とうなずく様が物語るのは、誰もが同じ思いをした証、じゃないでしょうか。

 「ね、ほら、このこくのある味、香り。独得のくせ、風味があるでしょ?」
 「うん、うん。そうだ、そう、そう!」
 「「蝦醬」ですよ「蝦醬」。先月の「大馬站煲」、皮付きバラ肉と豆腐の煮込み鍋、で使ってたのとれと同じ調味料。でも、最初、そうだって気づかないでしょ?」
 「うん、うん、そうそう。食べてみて、わかる感じ」
 「まさしく、そこんとこ。「蝦醬」の使い方、按配がいい感じ。見事ですよね」と、調理したわけでもないのに、ついつい自慢顔の私です。
 
 「蝦醬」については、先月の「家郷小菜と香港炸醤面~3月の「赤坂璃宮」銀座店の6/7」の「大馬站煲」の項目で触れてきた通りです。アミを素材にした醗酵調味料で、味にはくせがあり、匂いも強烈。その好き嫌い、はっきり別れます。

 好きな人はくせのある味、匂いが「たまらない!」。それも病みつきになって「もっと、もっと!」と、分量の加減多目が好みになり、ますますエスカレート。反対に、くせのある味、なによりも匂いが「たまらない!」、つまりは「我慢できない、耐えられない!」。なんてことで、日本では後者が圧倒的多数を占めるようです。

 それからするとこの「大澳香酥鶏」。どちらかといえば控え目な「蝦醬」の分量。その加減、按配は日本人の嗜好、好みを考慮したもの?なんて風にも受け取れる。いやあ、そうではありません。素材自体の持ち味、同時に、特有のくせ、匂いを放つ「蝦醬」の味、風味を生かした味付けと調理による一品。しかも、軽くて、上品で、洗練された美味がここにある。そんな素材と調味料のバランス、調理の技の妙は見事。調味料の按配を加減した料理人の工夫と技の産物、成果なのは明らかです。料理人の技量、手腕、なによりもセンスの良さを物語ります。

 そうか。もしかして「蝦醬命!」なんて人には、この「大澳香酥鶏」での「蝦醬」の分量が物足りないかもしれないですね。たとえば、アジアの食は屋台にありと信じてやまないバック・パッカーやその予備軍、B級グルメ的美食探求に余念がない人々の多くが求める「ひと口食べて、いきなりがっつり!」の味からすると、手応えが乏しく、インパクトに欠けるかも。

 あ、私もB級グルメ大好き人間。ですけど、安くて旨い料理というのは妄想と観念の産物、工夫と努力による結果であって、絶対的な美味的観点からすればハンディを背負っているのがほとんどというのが現実。料理の本質よりも経済的価値観、観点が重視されたもの、なんじゃないかなんて思うことがしばしばですから。そう、その際の料理の本質というのも、絶対的な美味という観点からではのものではなく、それぞれの実体験に照らし合わせた極私的価値観によるもの、なんてのが顕著な感じです。

 「高くて旨いのは当たり前!」と値段の高い高級料理、高級料理店は一刀両断、なんてことが多いですが、やはり、問題は「素材」。料理によっては「だし」の存在を見逃せない。さらに中国料理は「板」と「鍋」の課題をクリアーしてこそ、美味は生み出されるのものですから、高いのにはそれなりの理由がある。ですが、その点は無視されがちなんですね。

 中国料理だけでなくアジア各国の料理なども、やはり「素材」、加えて「だし」の存在は重要ですが、現実問題としては経済的な制限が足枷になっているのが大半です。東京や横浜で、香港の味、あるいは中国本土、現地の味を再現、なんて評判の店がありますが、多くはそうした問題、課題を抱えています。

 厄介なのは現地特産の調味料を最大限に活用すれば現地の味が再現できるという極端な思い込み、安易な発想、思考が存在することです。実際、現地特産の調味料を最大限に活用すれば、現地の味が再現できると思い込んでる人、意外に少なくありませんから。

 そう、現地そのままの調味料をふんだんに使っても「素材」、「だし」がしっかりしてなければ美味は生まれない。現地の味は再現できない。現地云々よりも、絶対的な美味的観点からしてば、及第点すら満たしていない、なんて例がほとんどです。

 もちろん、「赤坂璃宮」銀座店では「「蝦醬」たっぷり、くせの強い味つけで!」というリクエストは可能です。それも、その分量に応じたバランスのとれた味の妙と技を見せてくれるはず。それって「客の口にあわせる!」ということなんですが、それこそは香港の、さらには中国本土の高級料理店における絶対的な評価を決定づける、必須の条件ですから。

 それより調理方法こそ違え「酔湖」の「蝦醬碎炸鶏」の味付け、「蝦醬」の分量、実はそんなに多くはない。私は「大澳香酥鶏」の味付けに大いに満足。さっくりの歯触り、肉はジューシー。すっきり軽くて、洗練されています。

 やったね!「赤坂璃宮」銀座店の「蝦醤鶏」。

2009/04/19

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の2

会議は続く。というのも、いつもとは違う新たな別件の議題が持ち込まれたからで、日頃のリラクスムードとはうって変わって議論白熱。

 そんな最中に「大澳香酥鶏/伊達鶏の蝦醬風味揚げ」が登場。待望の「蝦醬鶏」の登場であります。その《芳香》に吸い寄せられて「あれ?何言おうとしてたんだっけ」と、話してた意見、中折れ状態。
 やばい!  それにしても料理名、まんま「蝦醬鶏」じゃなく「大澳香酥鶏」と言うのが泣かせます。素敵な、いや、「粋」な料理名だ。

 「大澳」というのは香港の西、現在、空港のあるランタオ島(大嶼山)南西部にある漁村で、明代の頃に中国本土からの移民が住み着き、漁村として栄えたところです。 その「大澳」の名物、名産なのが「咸魚」と「蝦醬」。

 ことに大澳産の「蝦醬」、それも固形状の「蝦膏」は、飛び切り上質ってことで知られてます。つまり「大澳」の名があるってことは、同地の名産の「蝦醬」を使ってるってこと。もしくは、それにちなんで「蝦醬」を使って味付けであることを意味するわけです。

 さらに「香酥鶏」とあるのが、ますますニクい。その言葉からは袁さんがこの料理に凝らした「工夫」と「技」、料理人としての心意気が汲み取れるからです。そんなことで、ますます盛り上がります。

 この料理「蝦醬鶏」、日本でその存在を知られるようになったのは今はなき香港、湾仔の「酔湖」の看板料理だったのがきっかけ、じゃないでしょうか。ちなみに「酔湖」での料理名は「蝦醬碎炸鶏」。

 手前味噌な話になりますが、私の知る限り「酔湖」、それにいくつかの看板料理を雑誌で紹介したのは私が最初、だったはず。その最初の取材で通訳をお願いしたのがTさんです。コーディネイターを務めてるもんですから、当人が依頼された他の雑誌の香港取材でばんばん紹介。そればかりか、後に出た香港の食案内の著作本で、自分が見つけてた長年の懇意の店風な口ぶりの紹介に、目が点!に、なったことも。

 Tさん以外に「酔湖」を紹介したサイト、ネットで見つけましたが、お気に入りの店でしたから、その名前、広まるのは嬉しいなと思ったものです。しかし、とあるサイトに私がそのTさんに「酔湖」を教えられた、なんて勝手な想像、書かれていたのにはさすがの私もうんざりするだけじゃなく、怒り心頭。すぐさま、抗議、訂正依頼のメールを出したものです。

 ともあれ、香港ではメニューに「蝦醬鶏」を乗せ、しかも、看板料理していたのも「酔湖」だけだったはず、って私の知る限りの話ですけど。いや、裏メニューにあり、というか頼めば即座に作ってもらえました。

 というのもこの料理、香港では手羽先を素材にした家庭料理として一般的。一般の広東料理店で手羽先を素材にした料理は、前菜する焼味の一品としてタレの「滷水」に漬け込んだものや「南乳」の風味で味付けしたもの。もっとも、餐廳や咖啡舗、たまに粥麵店で「炸鶏翼」、手羽先の唐揚げというのがありますが、そんな時、風味づけに「蝦醬」が使われていたりします。

 そんなことから、広東料理店でこの料理を頼めば、手羽先じゃなくて骨付き、もしくは骨を外した鶏肉を素材にするのが一般的。「酔湖」の「蝦醬碎炸鶏」が評判を呼び、名物にもなったのは、「鶏翼」、つまり、手羽先を使った昔ながらの庶民の味を、鶏のぶつ切り肉を使って再現してみせたところにあったのは事実です。

 そんな「酔湖」の「蝦醬碎炸鶏」に魅せられたのが吉祥寺の竹爐山房の山本豊さん。それを日本に持ち帰って、独自の工夫を凝らしてそれを再現。というわけで、山本豊さんの薫陶を受けた料理人はそれを受け継いでます。経堂の「彩雲瑞」の千秋君、大阪の「一碗水」の南君もやってます。

 そういえば、南君「ビールにあうアテ、なんかない?」という顧客の要望から思いついたのが「蝦醬鶏」。それも手羽先を使って、つまりは香港庶民の味を再現。その評判が広まって「一碗水」の知る人ぞ知る一品に。

 これが「一碗水」の「蝦醬鶏(翼)」。「ラ・ベカス」の渋谷さん、香港の食については詳しくてうるさいって話、伺ってますが、そのお墨付け得たのが評判を呼んだそもそものきっかけだった、なんて話も聞きました。

2009/04/18

やったね!「蝦醤鶏」~4月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 コンサート通いが続いています。
 昨日は中野で山下達郎。東京ではもう1回追加公演ありとなりましたが、本来はラスト公演。なんてことでアンコールには竹内まりやも登場。歌ったのは・・・やめときましょう。

 それより、開演6時36分。終了したのが10時過ぎという長丁場。存分に楽しんだ後で、中野なら蔡さんの店に行ってみよう、なんてことでラスト・オーダー前に「蔡菜食堂」に到着。したものの、満席の賑わい!蔡さんに挨拶しただけで、涙を飲みました。

 そう、コンサートにでかけると、終了時間は9時から10時。それからどっかで食事なんて時、新宿あたりならまだしも、たいていの場合、ラスト・オーダー間際のきわどい時間。中途半端な食事は苦手、なんてことから諦めちゃうケースがほとんど。その点、蔡さんの店、ラスト・オーダーが22時45分と実に好都合だったものの、満席では致し方ない。dancyuなどで紹介される前からその人気と評判、聞いてましたが、その実態目の当たり。

  そして、明日からもまたコンサート通い。なんてことで、ブログ・アップ滞らないようにと、今月の「赤坂璃宮」銀座店報告、早々とアップしておくことにしました。
 題して、「やったね!「蝦醤鶏」」。そうです、リクエストしていた「蝦醬鶏」が遂に登場。詳しい話は後にまわして、まずは前菜「粤菜焼味盆/前菜の盛り合わせ」。

 あれ?大藤さん、今月は「璃宮焼味盆」でも「香港焼味盆」でも「広東焼味盆」でもなくって、「粤菜焼味盆」?

 成る程、目の前に現れた前菜を見て納得。その内容、いつもとは少しばかり違いました。右から「牛展」、「鶏肝」、「叉焼」に「白菜」の漬物。「赤坂璃宮」銀座店の「牛展」は初めて。牛スネ肉の冷製です。
 香辛料を使っての下拵えはしっかり。ですが、肉が乾いていてぱさつき気味。ということで、風味が少々乏しい。私はも少ししっとり加減が好みです、それに、この状態ならも少し薄目に切リ分けた方が味、香りがたって良かったかも、というのが私の印象。

 それから「鶏肝」。鶏の肝の焼き物。会議に夢中だったもんで、最初、チラっと目をやった時、その形状から「家鴨の舌?にしては大きいし・・・」。

 会議の話の途中に、口に運んだら滑らかな触感。唇に触れた甘味(麦芽糖?)のあるタレに驚いて、思わず口篭り。噛み締めるとねっとりの触感、こくのあるこってりの甘味が舌にのしかかる。そして、濃い血の味がする!

 「レバーじゃん、これ!こういうの大好き!」と、頭に思い描きながら、そのことは口にせず、議題に戻って話を再開。もっとも、その間にも、ねっとりの触感、こってり濃密な味の余韻が頭の中を駆け巡る。

 「過日の「金銭鶏肝」も良かったけど、こうやってこってり濃厚な甘味のタレで焼いた「肝」を食べるのも良いなあ。ほんとに、これ、相当イケる前菜、アミューズだ! そういえば「ブータン・ノワール」みたいなもんか。すると、蜂蜜やらベリーのジャムと一緒に食べたら、もっと旨いかも。

 そうだ、香港の焼き物の前菜に「ブータン・ノワール」はないから、そういうの今度、焼き物の担当の人にリクエストしてみようか」なんて思い浮かんだりして。

 いかん、いかん、会議に集中せんと。いやはや、実に罪作りな焼き物だったのでありました。

2009/04/15

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の10

 締めくくりの甜品。
私は「杏仁」と「胡桃」のお汁粉をミックスした「鴛鴦」。
 今回の「青木宴」。中でも印象に残ったのは「肘子燉生翅」。しっかりの塩味で男性的、なのに荒々しくはなく、清々しく溌剌とした爽快感があったこと。「荔蓉香酥鴨」の芋のさっくり、ねっとりと、家鴨の皮のパリっと肉のジュシーな歯ざわり、触感、味、風味の対比。芋のこくのある甘味、家鴨の野性味を生かした洗練の技。

 豬の煮込みの軽くて上品な味わい。その「雙冬炆野豬」の「筍」、あるいは「咸魚炒蜜豆」の「蜜豆」の素材の持ち味の生かし方。いずれにしろ、調理のスタイル、味付け、技、味の決めは、香港島と九龍の福臨門の特徴、良さが混在。どちらかといえば、香港島の福臨門寄り、かも。羅安さん直系の呉錦洪さんの繊細さとはまた違ったきめの細かさや洗練。張漢華さんの鮮烈な「鑊気」あふれる鍋使いとは異なるしなやかな力強さ、溌剌とした若さ、爽快感がありました。

 料理人の名は胡福春さん。銀座店にいた袁さんと入れ替わり、名古屋の福臨門から銀座の福臨門へ。というわけで、張さんは現在、丸の内店に勤務中。福臨門の料理人、スタッフは、色々と店を入れ替わります。

 その胡さん、羅安さんの弟子という話を耳にして経歴を尋ねたところ、14歳の時、最初に勤めたのは鴻福門、次いでホテル日航の「桃李」へ。なんて話に「もしかして、霍錦常さんと一緒に働いてた?」と尋ねたら、なんと、霍さんが最初の師匠。霍さんとずっと行動をともにしてきた、なんてことが判明。

 霍錦常さんは福臨門の九龍店の総料理長の羅安の弟子のひとり。日本の福臨門の総料理長で現在休養中の呉錦洪さんとともに、その才能を高く評価していた料理人です。つまり胡さん、羅安さんの孫弟子に当たるわけです。

 そういえば、霍さん、福臨門から一時、マンダリンホテルの「文華」の総料理長を務めていたこともありましったけ。その後、鴻福門、そして、ホテル日航の「桃李」に移り、次いで、深圳、広州へ、なんてことでした。

 胡さん、霍さんと行動を共にし、後にマカオの店などで勤めて後、福臨門が出張料理専門だった頃に腕を奮っていた「肥佬祥」こと祥さんと出会い、台湾へ。その祥さんから、出張料理時代に端を発し、後に洛克道に店舗を設けるようになった香港島の福臨門スタイルの料理を習得。

 羅安さん直系の霍さんから習得した九龍の福臨門のスタイルだけでなく、祥さんから教わった香港島福臨門のスタイルの両方を学んできた、というのが実に興味深い。胡さんの作る料理の背景には、そんな理由があったとわかりました。実際、今回、胡さんの料理を食べれば、そんな印象でしたから。そして、香港に戻り、福臨門に入って日本にやってきたのが12年前。なんて、料理人の足跡をたどってみるのも面白い……ですけど、あまりにも超マニアックすぎる話、かもですね。

 そして、お汁粉と一緒に出てきた「千層糕」。ピーナッツをまぶした「麻沙滋」。いずれも美味でした。
 というわけで今回の「立春宴」、実施までの時間、ゆとりがなく、素材の調達、基本的なコースの組み立ては福臨門におまかせ。多謝!
 次回は素材の調達、コースの組みたて、入念に行うことにいたします。

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の9

そして「お粥」。「青木宴」の当日の午後、突如、青木さんが思い立って注文したもの。
ということで、急遽しつらえた上湯仕立ての「上湯白粥」。同時に、お粥の共がずらりとテーブルに並びました。「腐乳」、「皮蛋」、「榨菜」、「炸雲呑皮(雲呑の皮を揚げた物)」。それだけじゃなくって「ロックフォール」に「ウォッシュ」のチーズ2種!
「わお、チーズ!なんでまた?」と、思わず目を丸くした私です。
「「腐乳」が合うから、チーズも合うかな、と思ってね!」と、お茶目な青木さんであります。

2009/04/13

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の8

 それから野菜料理。「通菜/空芯菜」の良いのが調達可能という話に、それなら「蝦醬」か「腐乳椒絲」でという心積もり。味付けは当日の気分で決めることにしていました。 ところが、最後のしめくくりの面飯、当初「菜粒雲腿帶子炒飯」の予定でしたが、青木さん、突如としてお粥が食べたくなった、なんてことで当日の午後、メニューを変更。
 食事のはじめにそんな事情を教えられ、なら、野菜料理、通菜の炒め物は止めて急遽「咸魚炒蜜豆」に変更。

 もっとも「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」がありますから「豆」の料理が重なります。しかも、調理方法は同じく「炒」。ですが、味付けが異なる。それに「咸魚」の味付けなら、お粥の共としてもうってつけなはず。おまけに青木さん「咸魚」好き。豆料理が「雪菜蚕豆圍蝦魷魚」になったのが残念そうでしたから。

  その「咸魚炒蜜豆」。お粥の共にするはずだったのが、そんなこと忘れてしまうぐらい美味でした。「砂糖さや」を炒め「咸魚」で風味付けといういたってシンプルな料理です。家庭でだってやれそうな料理です。が、そこはそれ「福臨門」ならではの「技」があった。それは見事としか言いようのない「技」でした。 我家では塩をひとつまみ入れた熱湯を沸かし、花生油をひと垂らししてから「砂糖さや」を投げ入れて、茹で上げます。その茹で加減、マヨネーズなんかで食べるときには、噛み応えのあるほどほどの硬さ、しんなり感を残した感じ。胡麻和えや、オイル&ビネガーで食べるなら、柔らか目に茹でるのが好みです。

 ところが「咸魚炒蜜豆」の「蜜豆」、しっとり、おまけに、噛み締めるとねっとり感もあり、というのに驚きました。しかも、ねっとりの触感とともに、豆の青い清々しさ、爽快感、甘味が浮かび上がる。素材の持ち味を巧みに生かした火の通し加減に目を見張りました。さらに上湯で煮含めてある感じ。ですが、たっぷりのそれじゃない。

 「蜜豆」のしっとり、ねっとりの甘さに、焦げる一歩手前ぐらいまで火を通した「咸魚」の香ばしさ、塩味、火を通した「咸魚」が生み出す香ばしが加味され、絡み合って、甘さ、鹹さが一体化。素材の持ち味を生かした料理って、こういうものなんだと思わずため息。

 素材の持ち味を引き出し、味、風味を加味する「上湯」。それに、火の扱い、つまりは「鍋」の技の見事さ。「こんなの家でなんか作れこない!」と、思い知ったのであります。

2009/04/12

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の7

 それから「雙冬炆野豬」。本年、私が食べそびれた福臨門の冬の野味の名残りもの。
 今年の冬の「野味」で、まだ調達可能な素材を問い合わせたら、鹿は終わり。豬は「部位によっては」との返事でした。

 私が食べたかったのは「家鄉五寶炒野豬粒/猪肉の五色炒め」か「菲王銀芽菜炒野豬絲/猪肉と韮、ザーサイの細切り炒め」。残念なことには、炒めものにふさわしい部位、どうやらフィレ肉か腿肉だったようですが、すでに終わり。

 「でも、ばら肉ならあります。煮込みにうってつけで、ちょうど筍が出回りはじめたので干椎茸も一緒に炊き合わせた「雙冬炆野豬」があるってことで、即座に「それそれ!」ってことで、決定!
 「筍」はさくっとした歯触り。若々しく、清々しい、春の味です。風味もよくってかなりの美味。それよりも「豬」。なんせ、肉喰い、野味が生きがいの私です。

 皮の下の脂、豬ならではの脂はつるんと滑らか、とろける感じです。肉はしっとり、噛み締めるとねっとり感も。ジューシーで、こくがある。その味は濃密。それも、野味特有のくせの強さより、素朴で自然、なによりもフルーティー、ことに甘味が浮かび上がる。
 

 それより、この豬のばら肉を気に入った福臨門の徐さん。なんと「東坡肉」風の煮込み料理にしたそうな。豬の脂、それに、このフルィーティーな肉の持ち味を生かした料理なのに違いない。

 その話を耳にして、無念の歯軋りしきり。広東地方の冬の野味料理に特有の「柱侯醤」で味付けした煮込みもいいですが「東坡肉」仕立てにする、というのがスルどい!さすが喰いしんぼうの徐さん、目のつけどころが違います。来年には、この大分産の豬の「東坡肉」仕立てをなんとか食べなくちゃ!

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の6

 ほくほくの「蚕豆」が旨い。火の通し加減、按配が絶妙です。確かにあの独得の「匂い」がない。「蚕豆」にからむ「雪菜」の味、風味も成る程。漬物独得のクセのある味、風味。しかも、旨味をさりげなく加味、というあたり効果絶大。

 そういえば、私、この季節、「空豆」のパスタを頻繁につくります。「空豆」は茹でたりなんかせず、一個、一個、丹念に皮を剥いて、ニンニクと唐辛子風味のオリーブ・オイルでじんわり、じっくり火を通したもの。憧れの料理人で、色々と学ぶことの多い狐野扶実子さんのレシピをもとに、手前勝手に工夫しました。その風味漬けに「アンチョビ・ペースト」を必ず使います。つまりは「蝦醬」を使うのと同じ要領で。 ということは、「蝦醬」を漬物に替えたのがこの料理ってことか!

 一緒に炒め合わせた「圍蝦」、才巻きのぷり感、甘味が良いなあ。 実は、当初「えび」じゃなく「「蚕豆」と「龍蝦」では?」という提案がありました。「龍蝦」、つまりは「伊勢えび」ってことです。
 「伊勢えび」と耳にして、胸をとめかせて小躍りする人、しない人。私、しない人。これまで「これぞ!」という「伊勢えび」に出会ったのは数えるほど。良いのに滅多に巡りあえたことがないもんで、ついつい懐疑的で、疑心暗鬼。
 それでも「龍蝦」を薦めてくれたのにはワケがありそう。

 「「龍蝦」って、どこ産のですか?まさか、香港の近海ものの小ぶりの「龍蝦」の「ベビー・ロブスター」が入荷したの?あれ、私の一番の好みです」
 「香港の近海ものの「ベビー・ロブスター」なんて、昔話。獲れなくなっちゃんですよ、最近。たまにあっても、その量はほんのわずかですから、滅多に口にすることはできません」 

 「すると、今回のお薦めは日本産の伊勢えび?でも、これぞといえる良質なのってなかなかないでしょう。なんだか水っぽくて大味で、風味が足りなかったり、火を通しても甘味、旨味を感じないぼってりしたものが多いし……」
 「それに、日本の「伊勢えび」ってメタリック(金くさい)のが多いでしょ?」

 「なるほど、言われてみればの話だね。じゃ、日本産でないとして、どこの?」
 「ニュージーランド産です」
 「そうだ、香港の香港島店、九龍店もニュージーランド産の伊勢えびを使ってるよね。そういうことだったのか。そうそう、日本じゃオーストラリア産のものが盛んに輸入されてて、禁漁期はニュージーランド産が来るって話を聞きましたね。そのオーストラリア産のを食べたことがあるんだけど、なんだかなあ、って感じだったんで。でも、ニュージーランド産のを日本で食べたことはないなあ。そういえばニュージランド産とオーストラリア産じゃ違うって九龍店の梁保も言ってましたね……」

 なんて伊勢えび話で盛り上がりながら、結局、今回は見送り。もっとも、今回、才巻海老を使って正解。ですが、ちょっとがっかりしたのは「魷魚」。「やりいか」でした。素材自体はグッド。ですが、その下拵え、包丁の切り込みがいささか乱雑。この一つ前のコラムでの「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」の画像見れば、それは歴然。

 本来はぬめっとしていてねっとりの「いか」の身に包丁を入れ、ぷちぷちの触感、爽快感を加味という寸法。ところが包丁の切り込みが乱雑でざらっとした触感。それだけに「いか」の緻密な触感、その持ち味、ことに甘味、旨味がそがれてしまっていたのがちょいと残念でした。

 たまらず、アテンドの清水さんに 「あのう、この「魷魚」の下拵えなんだけど、「板」はどういう人がやってんの?」 生意気な私です。ですが、それを確かめられずにはいられないぐらいに、ちょいと乱暴な包丁の切り込み、下拵えだったもんで。 ついでに言っちゃえば「雪菜」の切り揃えもいささか乱雑。それもまた、味、風味をそがれる感じで……。

 「こういうこともあるんだ」とひとりごち。 青木さん、しっかり聞き届けていたみたいで 「そですね。これはちょっと残念だ!」と、同意のぽつり。その点をのぞけば「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」はOK。 でも、「魷魚」なしでもよかったかもなあ。なんて、しつこくてくどい小言ぢぢいの私です。

2009/04/11

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の5

 もう一品。春ならではの素材ということで豆類の料理。
 「蚕豆(空豆)」と「蜜豆(さとうさや)」があるってことでした。それも「蚕豆」なら漬物の「雪菜」と「えび」か「いか」炒めた「雪菜蚕豆圍蝦魷魚」。「えび」や「いか」でもなく「伊勢えび」に替えるのもあり、なんて話でした。それから「蜜豆」は「咸魚」風味で炒めた「咸魚炒蜜豆」がお薦め、なんて話。さて、どうしよう?

 「蚕豆」といえば香港の上海系の店、上海の食堂や揚州で紹興酒漬けを食べたことがあります。それに「枝豆」の「毛豆」と「雪菜」を生唐辛子の「紅辣椒」風味で炒め合わせた「雪菜毛豆」は、作りたてのもにしろ、冷ましたものにしろ、この季節、必ずとる一品。酒のつまみとしてもおかずとしてもうってつけですから。

 そうか「雪菜蚕豆圍蝦魷魚」は「雪菜毛豆」の「毛豆」を「蚕豆」に置き換えたってことだ。広東料理店でもそんな風にして出してるなんて知りませんでした。そういえば「蚕豆」と「雪菜」のスープ仕立て、なんてのがありましたっけ。

 それにしても「蚕豆」にしろ「毛豆」にしろ「雪菜」などの漬物で炒め合せ、時には生の「紅辣椒」の微塵切りで風味漬けというのが面白い。ざっくばらんで気取りのないお惣菜的一品です。

 「「蚕豆」にしても「毛豆」にしても、茹でたり、蒸したり、火を通すと、独得の強いクセのある「臭い」がするでしょ?だから、あの「臭い」を抑えるのに漬物と一緒に炒めあわせるんです」なんて話に「ふ~ん、そうだったのか、成る程!」と納得。

 「匂い」じゃなくって「臭い」というのが面白い。そうです、「蚕豆」しろ「枝豆」にしろ、茹でたり、蒸した時のあの匂いの受け止め方、中国、日本ではまるで違う、ってことですね。

 日本だとあのクセのある独得の匂い、香り、風味こそが味わいところ、なんてのが一般的じゃないでしょうか。ことに、山形産の「だだ茶豆」など、あのクセのある香りが倍増、なんてところが味わいところ。そんなことからすると、もしかして香港の人に「だだ茶豆」を出せば、鼻をつまんじゃうかも!それに、もしかして「豆ご飯」も、アウチ、なのかなあ。

 一方の「咸魚炒蜜豆」。「炒めた「蜜豆」の甘さと、「咸魚」の塩味、それに旨味がうまくマッチして、とっても美味しいです」なんて話に、そそられます。

 私、「咸魚炒蜜豆」は未体験。それも、福臨門がストックしている「咸魚」、半醗酵でクセのある味、風味、とりわけ芳醇な香りを撒き散らす「梅香」ものの「馬友」があるのを知ってますから、大いにそそられる。「咸魚」好きな青木さんなら、即座に「咸魚炒蜜豆」に決定しそうだな。
 迷った挙句「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」に決定。

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の4

 この季節、貝が旨い。蛤か浅蜊を素材にした料理が食べたい。どちらでも良いものがあればと、手配を依頼。蛤なら去年「蛤蜊蒸蛋」にしましたから今回は「金銀蒜茸蒸蛤蜊」で。浅蜊も大ぶりのものなら「蒸蛋」仕立てで食べてみたい。
 それとも、今回は新鮮な魚介の類の料理がないからオーソドックスな海鮮風の炒めものでも悪くないなあ とまあ、そのあたりは素材の調達次第で調理、味付けはおまかせにしました。 そして登場したのが「豉椒炒蜆」。浅蜊をピーマン、パプリカなどとともに黒豆味噌の「豆豉」を素材にした調味料の「豉汁」風味で炒めたもの。いつもの福臨門のこの種の料理に比べ、とろみ付けが少しばかり厚くて重い。その分、味つけは濃い目で、メリハリが利いています。それも、香港の街中で深夜遅くまで開いている大衆的な海鮮料理専門の店、それに鯉里門、流浮山、西貢、南Y島や長洲の船着場の近辺にある海鮮料理の店で食べた料理の数々の思い出が蘇るような「懐かしい味」、なのが面白い。

 火を通せば、ぼってりとした身も露わに妖しい艶っぽさをふりまく蛤。その味わい、風味は濃密で色濃い。浅蜊はそんな蛤とは対照的。素朴で直截的な磯の味、風味がする。そう、浅蜊は、言わば木綿の肌触り。そんな浅蜊の持ち味を黒豆の醗酵味噌の「豆豉」が引き立てる。それに、ちょいと唐辛子の辛味が利いていて、スパイシー。なんてところがますます食をそそる。

 「これ、いいじゃないですか。この味、この風味!」と、青木さんは大はしゃぎ。 広東地方、香港の、ざっくばらんで気取のない直球勝負の海鮮料理の味を海鮮料理の醍醐味を存分に味わい、楽しみました。

2009/04/09

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の3

 続いては「荔蓉香酥鴨」。その料理名、なんと紹介すればいいのやら。
 「香酥鴨」、つまり「家鴨の香り揚げ」は北方の料理で山西、山東省のが有名です もっとも「香酥鴨」、下味をつけた家鴨を丸ごと一羽を蒸してから揚げたもの。香ばしくて、さっくりとした皮の触感、ジューシーな肉が味わいどころ。

 ですが「荔蓉香酥鴨」は、それとはちゃいます。家鴨の骨を抜き、身を開き、皮はそのまま残し、肉に里芋の一種の「荔浦芋」、もしくは「タロ芋」を蒸すか茹でて擂り潰したものをたっぷり厚みをつけて塗りつけ、というか貼り付け、揚げた料理です。

 ほんとは丸ごと一羽の盛り付けなんですが、今回は少人数だったので半身仕立て。
 広東地方の郷土料理の代表的な一品で、宴会などにも登場。

 そういえば、先に「赤坂璃宮」の銀座店で紹介してきた「盆菜」が生まれた新界の「圍村」の名物料理のひとつ、なんて話を耳にしたことがあります。「圍村」で良い「荔浦芋」が採れるから、なんだそうで。実は「家鴨」も大事ですが「芋」も大事。採れ立てのものじゃなくて、しばし寝かせたひねの芋を使う、なんてこともあるようです。

 この「荔蓉香酥鴨」、日本じゃ未体験。なんとか日本でも食べられないものかと願っていた一品です。それが今回の「青木宴」を実施するにあたって、調達可能な素材、新しいメニューを尋ねた際、リストの中の家鴨の料理にありました。見つけて、思わず狂喜。

 今回の「荔蓉香酥鴨」、日本で飼育されてる「家鴨」を求め、あれこれ探して、ようやく日本で飼育されているフランスのバルバリー系のものを入手、なんてことでした。加えて、芋に関しては上質な台湾産の「タロ芋」が入手出来たそうで。

 ちなみに香港なら「荔浦芋」を使いますが、日本では調達が難しい。台湾産の「タロ芋」、「荔浦芋」にくらべると香りの点では劣るものの、粘りがあって、蒸して潰した時の舌にとろける滑らかな触感は「荔浦芋」にも匹敵、なんてことだそうです。

 さて、「荔蓉香酥鴨」。揚げた家鴨の皮はぱりぱり。「脆」の蝕感、そのままです。もっとも「脆皮鶏」のように、下拵えした鶏に熱い油を注ぎかけて調理といった感じでなく、油でじっくり揚げた感じ。そのせいか、表面は焦げっぽい感じの色あい。しかも、下拵えの味付けはしっかり。

 じっくり揚げてありますから、しっかり火が通ってます。も少し肉がジュシーなのが好みかな、なんて思いましたが、おそらくはバリバリー系の家鴨だからじゃないでしょうか。もっとも、香ばしさ、風味は格別です。

 一方、擂った芋を貼り付けた身の肉の表面、揚げて部分的には蜂の巣状。さくさくの触感。「香酥」とあるように、揚げて生まれる香ばしさが風味を増す。味わい所のひとつです。さくさくの歯触りは、まさしく「酥」そのもの。

 噛み締めれば、しゅわっとした触感、それに、舌にまとわるねっとり感があります。そうだ、マッシュポテトのあのねっとり感を思い浮かべもらえばいいかな。おまけに、香ばしさだけでなく、こくのある甘味、濃密な味が、舌にのしかかってくる。

 これだ、これ、この味! しっとりしてて、こくのある濃密な甘味! これもまた広東地方の郷土料理、それも伝統的なそれに特徴的なもの。 思わず、頬が緩みます。
 そうそう、香港の飲茶の点心に「芋角」ってのがあります。「荔浦芋」もしくは「たろ芋」を茹でて、あるいは蒸して、擂り潰して、豚の挽き肉などを混ぜあわせ、掌におさまるぐらいの形にまとめ、揚げた点心です。蜂の巣状ですが、その見かけ、味、風味はまるで中華風のコロッケ。

 「そうか、あれか!」と納得の人もいらっしゃるに違いない。「家鴨」の身に擂った芋を厚く塗りつけた部分は「芋角」そのまま。

 「荔蓉香酥鴨」は広東地方の郷土料理の奥深さを知ることが出来る一品です。しかも宴席を飾ることも少なくない。日本で食べられるなんて、思いもよりませんでした。

2009/04/05

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の2

 前菜に続いて、いつもなら「例湯」。ですが、今回はちょっと贅沢にふかひれのスープ料理を組み入れました。「肘子燉生翅/金華火腿の脛肉とふかひれ、湯煎蒸しスープ」です。 「海虎翅(いたち鮫)」の胸ひれ。それと「金華火腿」、中国ハムの膝下の脛の部分を上湯で湯煎蒸しにした料理です。

 このふかひれの料理については、以前、紹介しました。上海系のふかひれ料理に「火腫魚翅」というのがあります。もともとは杭州料理なんてことでしたが、「金華火腿」の脛の部分とふかひれ、それもふかひれの形状を残した「排翅」をふんだんに入れ、「だし」を足して湯煎蒸しの「燉」で調理したもの。

 かつて福臨門が出張料理を専門としていた時代、上海系の顧客からのリクエストに応じて同料理を再現。それをヒントに、もともとは宴会向けの多人数用の料理だったことからそのサイズを縮小し、少人数でも食べられるようにしたことや、より洗練された上品な味付けに仕上げたのが福臨門の「肘子燉生翅」、と言う話は、昔、福臨門の総料理長の羅安さんに取材した際、耳にしました。

 「話には聞いて知ってますが、食べたことがないんですよ」という青木さんの話が頭にこびりついていました。それに、私、この料理、これまで福臨門でふかひれを素材にした料理、色々食べてきましたが(なんて、自慢話ですんません)、その中でもベストの一品のひとつ(ですから、他にもベストの一品があり、なんですが・・・というのも自慢話ですね)。

 日頃、美味しい味、料理に出会えても、それはその時のもの、なんてことで追体験にはさほど執着はなく、むしろ常々未知の味、料理に関心のある私ですが、中には例外もあり! という料理のひとつが「肘子燉生翅」。何回食べても、食べ飽きることがない一品です。

 福臨門の「上湯」は老鶏(ひね鶏)、豚赤身肉に、なんといっても「火腿」をたっぷり使ってありますから、旨味は濃厚。それに「火腿」特有の醗酵味が生み出す旨味、独得の、風味があります。このふかひれ料理は蓋付きの容器にふかひれ、「上湯」、さらに「火腿」の脛の部分を加え、2時間ほどかけて「燉」したもの。調理に時間がかかるため、事前に予約が必要な料理です。

 旨味たっぷり、風味の豊かな「上湯」に「火腿」をさらに加えてあるだけに、旨味、風味は一層増してより濃厚に。それに「火腿」自体、塩蔵の醗酵品ですから、その分、塩味が滲み出て、塩味しっかりの重い味になる。塩味の濃い重い料理は苦手な私ですが、この料理に関しては文句なし、問題なし。しっかり利いた塩味、濃厚な風味こそが味わいところ、ですから。

 そして「生翅」、つまりは「海虎翅」、いたち鮫の胸ひれをばらばらにほぐした太い翅絲(ひれの繊維)の「ぷち」、「ぷり」の歯触り、噛み応えがたまらない。もっとも、今回は予算の都合上ふかひれの分量を加減して、少なめに。ほんとはもっとたっぷり食べたいところですが……でも、そうやって、つまり、ふかひれの分量などを加減しながら予算を按配し、コースを組み立てていくのは賢明な方法。相談に乗ってくれます。

 それよりなにより「肘子燉生翅」は旨い。
 舌にのしかかる濃厚な味、醗酵味が入り混じった旨味は、有無を言わせぬ力強さがあります。澄まし仕立ての「清湯魚翅」の優しくすっきりとした清淡な美味とは対照的。荒武者のような野生味にあふれていて、逞しく、凛々しい。その風味の重厚さにも圧倒され、しばし、押し黙る。

 この料理に初めて出会った青木さん、ひと口食べて、目を丸くしてしばしフリーズ。さらに、もうひと口。その味、風味をしっかり味わっている様子が、手に取るようにわかります。その余韻を愛おしむように、再び沈黙。しばし間を置いて、ため息をこぼすように「これは、すごいや!」とひと言もらして、後が続かない。ちょいわるオヤジ風の藤原君も「すごい、ですね!」と言ったきり、後はひたすら食べ続けるだけ。  お碗によそわれたふかひれ、スープとは別に、一緒に「燉」されていた「火腿」が皿に盛られて並べられます。それをそのまま味わうのもよし。そのエキス、ふかひれのスープに滲み出て「だしがら」のはず。ですが、そのまま食べればまだまだ旨味が残っている。

 そうだこの「火腿」、みかけはなんだかドイツ料理の「アイスバイン」だ。で、私はその「火腿」を、ふかひれのスープの入ったお碗に戻して、ふかひれと「火腿」を共に味わいます。なんて風に、勝手気ままに味わえばいいんですから! 
 これまで東京の福臨門で何度か食べてきましたが、いずれも呉錦洪さんによるもの。日頃の呉さんの料理、繊細で緻密なんですが、この料理に関してはしっかりの重い塩味が特徴。もちろん「火腿」をたっぷり使ってあるからですが。

 それにくらべると、今回の「肘子燉生翅」、若武者のように溌剌とした爽快感がある。加えて、九龍福臨門の重さとは違って、香港島福臨門の垢抜けた洗練を感じさせます。
 その秘密、理由、後になって判明したのでありました。

2009/04/03

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の1

 久々の「青木宴」です。本来なら年が開けてしばらく「春節」前後、冬場の「野味」を中心に、ということで一旦は日時が決まりかけていたものの、当方、この1月の終わり以来、いろいろ慌しく、日時を延期したままあっという間に日が経って、3月半ば、急遽、開宴を決定。今回は第一回目の「青木宴」と同じくこぢんまりと3人で実施。

 それより「青木宴」の一番のテーマ、趣旨は、中国料理の根幹の思想のひとつである「不時不食」、つまり「季節に非ずは食さず」に倣って、旬の素材による広東地方の郷土料理を楽しみ、味わうところにあります。もっとも、素材の調達、香港と日本では事情が異なりますから、すべて現地、本場そのままというわけにはいかない。それなら、日本の素材を使って広東地方の郷土料理を再現、という試みもその目論見のひとつです。

 というわけでいつもなら広東地方の郷土料理として再現可能な日本の素材をあたり、調達し、どのような調理がふさわしいのか。あるいは、日本ならではの素材を使って、広東地方の郷土料理が可能か、なんていうのを「青木宴」の実現前に調査、検討、下準備してきたものですが、今回は、充分な時間のゆとりもなし。

 そんなことから、調達可能な素材と調理方法を問いあわせ、同時に、希望する素材の調達が可能かどうかを確認。で、本来の目的だった冬の野味の素材、鹿と豬ですが、いささか時期遅しで、入手可能な素材では調理方法も限られる、とのこと。

 もっとも、青木さん、今回の「青木宴」までに、鹿や豬の料理のいくつかをすでに味わったそうな。うらやましい。中でもよかったのは鹿のフィレ肉の炒め物。それに、鞍下肉の煮込みだったそうです。

 今年は機会を逸しましたが、昨年、食べる機会のあった福臨門が取り寄せている大分の鹿、豬は、いずれも味、風味ともに格別で、扱いも巧み。各部位ごとに味わいが異なります。ことに内蔵類など、タイミングよく出会えればその真味を堪能できるのが嬉しい。

 そういえば青木さん
「鹿の煮込み料理と一緒に食べた「ほうれん草」が格別に旨かった」
 と、ぽつり。
 「根がついたのをそのまんま炒めたほうれん草、なんですけど」。

 もしかして、それって「埼玉の東松山の加藤さんの「日本ほうれん草?」」と尋ねたら、
 「そうそう、そうだってことでした」と、青木さん。
 もっとも、加藤さんの「日本ほうれん草」が味わえたのも、2月半ばまで。
 それに取って代わる葉物の野菜、なんかあるだろかと福臨門に問い合わせ。

 そしたら「通菜(空芯菜)」の良いのが出回りはじめた、とのこと。
 それ以外に、葉物ではないけれど「蚕豆(そら豆)」、「蜜豆(さとうさや)」を素材にした料理があると言う話。

 そういえば、蚕豆にしろ枝豆にしろ、上海系や揚州系の料理をやる店ではお目にかかっても、広東料理系の店でその種の料理には滅多にお目にかかったことがない、なんてことに興味をそそれらました。
 それに季節柄、貝類です。
 蛤、それに、浅蜊を素材にした料理が可能なはず。
 蛤といえば、昨年、春過ぎに豚の内蔵類の各種の料理を中心にした際、「蛤蜊蒸蛋」を依頼。それがとっても素晴らしかった。
 
 その際、「金銀蒜茸蒸蛤蜊」にするかどうか、迷った挙句の選択だったことを思い出し、それなら今回はその「金銀蒜茸蒸蛤蜊」で、なんてことも思い浮かぶ。
 とまあ、調達可能な素材を尋ね、その調理法をあれこれ思案。
 そして、以下のように相成りました。


 まずは前菜の「前菜三拼盆/三種の前菜の盛り合わせ」。焼肉(皮付き豚ばら肉の焼き物)、叉焼、くらげの3品。前菜というよりもアミューズといった趣で、焼肉、叉焼ともに一片ずつ。

 焼肉、皮のぱり感とともに脂身、肉はしっとり。叉焼もジューシーな味わいを残した焼き加減で、じんわり甘味、旨味が浮かび上がる。それも、穏やかで優しい味、風味が口中に広がります。ことにくらげが旨かった。肉厚で、最初はこりっとした歯ざわり、ぱりぽりの噛み応えが快感。味付けの塩梅、めりはりのあるしっかり味で、風味がある。

 いずれもその味、風味、さりげなくて奥床しく、それでいて存在を主張、なんてところが、福臨門の焼き物らしい、なんて思いました。

2009/04/02

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の10

 締めくくりの「甜品」(デザート)は「海帯緑豆沙/昆布入り緑豆のおしるこ」。
 「緑豆沙」というのは「緑豆のお汁粉」。「緑豆」といえば文字から「グリーン・ピース」と思われがちですが、さにあらず。

 マメ科の一種の「やえなり」ってことで、「青小豆」、「文豆」とよばれていて、むしろ小豆と同種、ささげ属の豆です。もやし作りに使われるほか、その澱粉から「春雨」を作ります。さきほどの「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」に使われていた「龍口粉絲」はまさにそうでした。

 「緑豆」の「お汁粉」は経験あり。ですが「海帯/昆布」入り、というのは初体験。戻した昆布ですから、ぷり感のはざわり、噛み応え。それに、磯の香、味がします。

 そうか、小豆のお汁粉を作る際、塩を加えて味をひきしめたり、甘味を引き立てる、なんてやりますが、もしかしてそれと同じ要領、というか考えなのかもしれませんね。

 「緑豆」のお汁粉自体、素朴でひなびた味、風味、甘さが特徴ですが、それに昆布が加わって、味も風味も、少しばかり複雑。それも磯の香、風味が醸し出す独得の雰囲気がおもしろい。香港には南Y島、長洲の船着場の周辺に海鮮料理が食べられる店がありますが、その光景が突如として甦りました。

 それになんだか沖縄気分。ほら、沖縄には北海道から届いた昆布を使った料理が多くって、南の島の山海の幸と北の海の旨味が織り成す哀愁を帯びた郷愁の味がある。そんなことも、思い浮かんだりして。

 ともあれ、今月の「赤坂璃宮」銀座店の料理、「老火豬肚湯」にしろ「大馬站煲」の広東地方の郷土料理の「家郷菜」風味の「湯」や「小菜」、なんといっても香港B級グルメの極めつけ的一品「まじ、やばい!「炸醬撈麵」」に、大いに盛り上がったのでありました。

2009/04/01

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の9

 香港式炸醬面、香港の炸醬面の「摩訶不思議」のこってり味。
 濃厚で甘酸っぱくて、辛味じんわり!
 「ですから、酢豚ね、酢豚のあの甘酸っぱさに、辛味と味噌味の旨味、こくが加わったような感じなんです!」
 と力説しても
 「なんだか、想像がつかない!」と、メンバーには話が通じない。

 そんな時
 「私、それ、香港で食べたことがあるかも!」と、右手が上がりました。
 「麵屋さん、だったか。食べた具入りの麵がそんな感じ。炸醬面、みたいなんだけど、炸醬面にしては甘いような、酸っぱいような……日本の炸醬麵と違って、独得の味つけなんだけど、炸醬麵のような……!」 

 「それ、それ、そういうの!、多分、きっとそれよ!」
 思わぬ援軍の登場に勇気付けられ、つい声高になってしまう私です。
 そして、いよいよ「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」が登場。

 「香港式にスープもご一緒に、ということですので!」と、アテンドの山下さん

 「わお!この色あい、この香り!」と、ひとり盛り上がる私です。
 「あれ?これ、私が香港で食べたのと、ちょっと雰囲気、違うかも……?」
 「あ、もしかして、これより赤色がかってるって言うか、レンガ色を赤くした感じで?」
 「う~ん、そうかな……?」なんて会話の横では
 「これ?これですか?」といささか怪訝顔。

 しかし「違うかも?」の人も、怪訝顔の人も、ひと口食べてしばらく、皆さん、破顔一笑。
 「そうかこの味!なんですね、なるほど!」と、声が上がります。
 「美味しい。だけじゃなくって、不思議で、おもしろい味ですね。甘酸っぱくて、辛味がじわっとくるなんて。それに、クセになりそうな味、なんですね」なんて声も上がる。

 甘酸っぱくて、やがて辛味がじんわり。おもしろいっていうだけじゃなく、なんだか懐かしい味。昔ながらの中華料理の味、なんてところが私にとっては堪らない。

 それより、気になったのはその味付け、調味料。香港で食べたそれとは、少しばかり趣がちゃいます。なんていうか、甘味、酸味、辛味だけでなく、ひねた味噌の味、醗酵味が、旨味、コクをましてる感じです。

 甘味は、おそらくケチャップに間違いなし。それに、ケチャップには酸味もあり。さらに、その酸味、火を通すと、思わず「ブフっ!」とむせちゃうウースター・ソースのそれ。なんだか「リーペリン」ぽいんだけど、甘味、コクがあるってことは「A1ソース」かなあ。いずれも香港の広東料理店や、中華式洋食を供する「餐廳」の料理、味付けの必需品。

 で、辛味。色合いからすると、赤色の若い「豆板醬」でもなし。
 やっぱり唐辛子味噌の「辣椒醬」?
 それにしては、ひねた味、味噌の味、こくを感じる。
 「桂林醬」だったら、辛味、もっと鮮烈なはず。

 ということは、「海鮮醬」か「磨豉醬」を加えてこくを増してるのかも。
 でも、それにしては、ひねた味がする!
 とまあ、私の味覚センサーが活発に稼動し、その味、風味のもと、出所を探って記憶と照らし合わせます。といっても、それは瞬時の出来事。

 後で大藤さん経由、袁さんに尋ねたところ、調味料は
 「A1ソース、豆板醤、トマトケチャップ」、とのこと。
 「わお! 香港の「炸醬麵」のようにケチャップや豆板醬をふんだに使ってる印象はなかったなあ」、と私はひとりごち。

 それより、ひねた味噌の味が、旨味、こくを増してる感じだったので
 「「海鮮醬」、「磨豉醬」を使ってますか?」と尋ねたところ、いずれも使っていないとの返事が返ってきました。私もいい加減。知ったかぶりを痛感。

 でも、そうしたら、ひねた味噌味、旨味、こくの元は、一体、何なのだろう?
 そこんとこが気になって、もしかして「「豆板醬」?赤い色の若いものじゃなくって、れんが色のひねたものですか?」と、大藤さんを経由して袁さんに再々度質問。
 すんません、袁さん、大藤さん。毎度、お手数かけます!

 そしたら戻ってきたのが
 「成都 郫県(ピーシェン)豆板醤を使用しております」という返事。
 成る程。「れんが色でひねた味のやつだ!」と、そこで納得。
 併せて質問したのは「京式」、「京都式」の「炸醬麵」ですか?
 それとも「香港炸醬麵ですか?と尋ねたら、
 「袁的には香港(広東)スタイルです」とのことでした。

 麵と乗っかった具をかき混ぜて食べる。そして、スープを口にする、というオーソドックな食べ方もいいですが、麵と具をぐちゃ混ぜにして、食べてしばらく、麵と具にスープを注いで食べるのも悪くない。

 日本にありそで、横浜あたりにありそで、ないんですよ、この「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」。
 それとも私が知らないだけ、なんでしょうか。でも、これからは「赤坂璃宮」銀座店で出会えます。もしかして、事前予約が必要かも。 ですが「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」が食べられるなら、事前予約もいとわない。

 「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」は、とにかく旨い。メリハリが利いていて、パンチがあります。甘酸っぱくて、辛味じんわりの味、風味は誰にでも納得、郷愁を覚える懐かしい味、中華ならではの味。ジャンクな味。そうだ、B級グルメの極めつけ的一品に数えられるかも。この料理も「赤坂璃宮」銀座店の看板の麵料理のひとつになるかもしれません。

 いまどきの若い人たちぶりっこすれば、「これ、マジ、やばいっす!」

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして、いよいよ「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」。この料理、かねてより大藤さんを通して袁さんにリクエストしていた一品。 香港式の炸醬麺には格別の思い入れがあります。

 香港式の炸醬麵、というのは、香港で出会った炸醬麵。日本のそれとも、中国本土の北方のそれとも、大いに違いました。そもそもの出会いは、香港に通い始めてしばらく、当時、香港に出向けば通い詰めていた陸羽茶室を訪れた時のことです。

 陸羽茶室といえば飲茶。飲茶の点心の質の高さで有名です。夜の陸羽での広東地方の家郷菜、ことに、大良/順徳風味の小菜の数々は、かなりの味わい。ちょっと時代ががって寝ぼけた感じがしないでもないですけど、伝統的というか、実にオーソドックな季節の「小菜」数々は、実に魅力的。

 加えて、案外、見逃せないのが陸羽茶室の麵料理。香港の食について語る人の著作、ネットのサイトやブログの数々、いろいろみてきましたが、私が知る限り、陸羽の麵料理について目についたことは、滅多にない。

 私、遅い昼下がり、陸羽で「下午茶」、要は中国式アフタヌーン・ティーなんて時間には、飲茶の点心は控え目にして、陸羽の麵料理を注文します。しかも、ひと碗盛り、ひと皿盛りがあって、その種類は実に豊富。

 そんな中に「京醬肉麵」を見つけ、興味をそそられ、ものは試しと注文。最初、摩訶不思議な味だと思いました。
 そうだ、陸羽茶室の「京醬肉麵」は、以前、紹介したことがあります。
 そ、そ、この画像。
 左の具を面にいれると、こんな按配に!
 肉を主素材に味噌味で仕上たこってりの味付け。見た目、結構、濃い、というか早い話が「えぐい」感じ。で、口にすると、甘くて、酸っぱくて、最後に辛味がじんわりと浮かび上がる。その料理名「京醬肉麵」から、その正体、「京都式炸醬肉麵」と判明。

「京都式」ってことは、「北京式」というか、北方の炸醬麵ってことになります。が、北方のそれは味噌味仕立てで、豆や粉の味噌の味が濃厚。それよりも、甘さ、酸っぱさが立っている。
 やがて、その甘味、酸味、辛味、香港特有のもの、香港の大多数をしめる広東系の人々の好み、嗜好を反映したものだと知ることになります。伝統的な広東料理の店に特徴的な味、風味、というのにも一脈通じるところがあります。
 同じような面料理が街中の粥面店にもあります。いくつかの店で試してみると、やはり、甘くて酸っぱくて、辛味がある。中でも秀逸というか、独得の味わい、風味なのが、旺角の「好旺角」の「京都炸醬面」。油麻地の白加士街の「麥文記」の「炸醬麵」も、悪くない。

 で、「好旺角」の甘味は、明らかにケチャップ。酸味はウースター・ソース。で、辛味ですが、香港らしく辣椒醬ってこともあるし、豆板醬なんてこともある。ちなみに「好旺角」では「海鮮醬」を加えて、味噌のひね味、甘味、「こく」を加味。
 そいえば「磨豉醤」を加える店もある。でもまあ、調味料理の基本構成は大体似通っていて、分量と、それに辛味の醬、コク加える味噌の種類が店によって違う様子、ってことらしい。ですから、北方の炸醬面とは使う調味料が違います。よって、味付けも違う。
 なのに香港では「京式」、もしくは「京都式」なんて料理名なのがおもしろい。
 ま、日本だって、何々風、現地風といいながら、実はアレンジされ日本化したもの、なんてよくあることですから。そうそう、韓国の炸醬面も、そうした傾向強しで、一風変わっている。お国柄をあらわす独自性のあるものなのが面白い。

 ともあれ、そんな香港の「京式」、もしくは「京都式」の炸醬面、実は日本でであったことがありません。
 ご存知の方、いらしたら、是非、ご一報ください!
 なんてことで、「京式」、もしくは「京都式」でなくとも、香港風味、香港式の甘くて酸っぱくて、辛味がじんわり浮かび上がる「炸醬面」を食べたい。
 
 その思い募って、幾年月!袁さんと出逢って、これはもう千載一遇のチャンス!袁さんに作ってもらうしかない!なんてことで、たまらずリクエスト!