2008/02/28

お好み焼き 桃太郎


 ここ最近は神戸に戻っても、神戸で用事をすませれば東京へ直帰。
 しばらく前には帰途、大阪に立ち寄ったり、大阪にだけ仕事で出かけるってこともありました。そんな時、時間の余裕があれば必ず立ち寄ったのが生野区の勝山のお好み焼きの『桃太郎』。
 10年以上も前の話になりますが、週刊現代で「日々是好食」という食案内の連載コラムを執筆していた頃に紹介し(後に拙著「これはお値打ちKODAWARIの料理店」(集英社)に収録)、NHKの「男の食彩」のキャスターを担当していた時にも紹介したことがあります。
 随分前、夏場に大阪に頻繁に出かける仕事があった頃、知ったのが火事で焼け落ちる前の法善寺横町にあった「三平」というお好み焼き屋。そこの「いもすじねぎ焼き」が好みでした。
 その「いもすじねぎ焼き」、元をたどれば生野区、桃谷近くの勝山町の「桃太郎」がそもそもの発端、なんて話を地元の知人に教えられたのが「桃太郎」を知ったそもそものきっかけです。

 お好み焼き、といえば大阪では「豚玉」こそがその基本、というのは多くの人が認めるところ。大阪で生まれ育った我がかみさんもその主張を決して譲らない。
 かみさんと一緒に暮らすようになって、同じ関西の出身とはいうものの、私は神戸の生まれ、育ち。
 かみさんは大阪の生まれ、育ち。
 それに、私は勤め人の倅で、かみさんは商売人の娘。
 ということから、日々の食事、関西風を共通基盤としながら、些細なことで差異もあり、お互いカルチャー・ショックを味わったものでした。

 大阪に生まれ育ったかみさんにとって、お好み焼きといえば「豚玉」が基本。
 神戸に生まれ育った私にとっては「肉焼き」が基本。
 もちろん「肉」というのは「牛肉」。断じて「豚肉」ではありません。
 それにもうひとつ「すじ焼き」というのもありました。

 「すじ焼き」は牛のすじ肉を煮込み、柔らかくなったところで、細切りにしてそのままてお好み焼きの具にすることもあれば、牛のすじ肉を、糸こん(糸こんにゃく。といって「白滝」と称する極細のこんにゃくではなく、ところてんさながら押し出しこんにゃく状の太さのあるもの)をぶつ切りにし、砂糖や薄口醤油で一緒に炊き合わせ、お好み焼きの具にしたもの。

 猟犬と雑種の犬と一緒に育ち、やがて犬の食事番になった私が、犬の餌のために煮込んだすじ肉をつまみぐい、なんて話を以前しました。そんな犬の餌だったはずのすじ肉、我が母親が、牛肉の買い置きがない時、たまに煮込んだすじ筋に味付けし、お好み焼きの具にするってことがありました。
 そんなこともあって私の「すじ焼き」への思いは強い。
 そういえば、中学校時代、兵庫区や長田区から越境入学していた同級生の会話で、彼らにとってお好み焼きといえば「すじ焼き」なんてことを知ったものです。なんてことから「すじ焼き」は、神戸でも中央部から以西、兵庫区や長田区あたりがその本拠、なんてずっと思っていました。

 週刊現代で食のコラムを担当していた当時、なんとかお好み焼きを紹介したい、ということからお好み焼き行脚のフィールドワークを実践。
 私は神戸の「肉焼き」、「すじ焼き」、それに冬場の「牡蠣焼き」や、明石のたこを具にした焼きそばの「たこそば」をを紹介したかった。ですが、当時の編集担当の意向もあり、大阪にお好み焼きに的を絞りました。
 たまたま知己を得て、私の連載での大阪の店紹介を依頼した門上武司さんの知恵も借り、関西にでかける機会を見つけてはお好み焼きの食べ歩きに精出したものです。
 その時、やはり大阪は「豚玉」が基本だと、改めて認識。
 神戸のお好み焼きとの差異をまざまざと見せ付けられました。
 中には、すじとねぎを看板にする大阪で評判の店もありましたが、どっさりのねぎばかりが目立ち、すじの煮込みも味付け、風味が神戸のそれとは違いました。
 お好み焼きとしての旨さ、味わい、風味に欠ける。粉、すじ、ねぎの焼き物という印象でした。人当たりのいいサービスで、商売は上手い。ですが、味はいまいち。
 やっぱり「いもすじねぎ焼き」は「桃太郎」に限る。そう思いました。

 画像は「桃太郎」の「道頓堀極楽商店街」支店でゲットしたテイク・アウト用の「いもすじねぎ焼き」。
 新幹線に乗って、食べ初めてしばらく
「あ!画像!」と思いついて撮影したもので、食べかけですからその一部。
 揺れる新幹線での画像撮影です。

2008/02/25

「神戸元町別館牡丹園」


  私事あって神戸に戻りました。
  もう神戸には住めなくなってしまった私ですが、神戸には「行く」や「出かける」というより「帰る」とか「戻る」という気持、気分が抜け切れない。

 神戸に「戻る」となると、立ち寄らないではいられないのが「神戸元町別館牡丹園」。
 創業、確か今年で57年、だったと思います。

 最初にその名を教えられたのは小学校の級友からのことだった、はず。
 それよりも、中学時代の同級生に元町の裏の住人がいて、平林君ですが、彼から「なんぼおいしい!」と教えられ、思わず舌なめずり、という食い意地の張った卑しいガキでありました。
 もっとも、我家は父親が最初は栄町、次いでそごう裏のビルにあった料理店が好みだったことから、出かける機会もなく、実現できたのはずっとあと、大学に入ってからのことです。
 その後、その存在を再認識したのは、香港に足繁く通うようになってから。日本ではお目にかかれないと思っていた香港の味を「別館牡丹園」の料理の数々に出会ってからのことでした。思い起こせば、それらのメニュー、ずっと「別館牡丹園」にあったもので、そのことにも愕然とした覚えがあります。

 久々の「別館牡丹園」で食べたのは「姜葱叉焼蝦仁撈麵」と「什錦炒麵」。
 時間の余裕があれば、夕方の営業開始の時間に飛び込み、あれやこれや食べたい物を食べ尽くしますが、今回はその余裕もなく、昼、しかも、開店前に直行。

 「姜葱叉焼蝦仁撈麵」は、霞のベールのように、どっさりと白髪ねぎ。
 白髪ねぎをかきわけると、細切り(といっても、「絲」ではなく、「条」というにふさわしく、マッチ棒を4本束ねたほどの厚み、太さかがある)の「叉焼」がたっぷり。見るからに新鮮なむきえびがごろごろ。
 その下に、だしで和えた麵が寝そべっているという按配。

 茹でた麵を皿に盛りつけ、ねぎとしょうがの細切り、叉焼を載せてできあがり、といった香港の「麵粥屋」仕立てのそれではなく、香港の料理店でしかお目にかかれない本格的な「姜葱叉焼蝦仁撈麵」です。
 「叉焼」がうまい。
 もっと驚くのはむきえびの新鮮さ、ぷりっとした触感、甘味、旨さ。
 韓国料理ではないですけど、麵と具をぐちょぐちょにかき混ぜてこその「姜葱叉焼蝦仁撈麵」。しょうがとねぎのヒリリ感も刺激的です。
 それにしても、優しく、穏やかで、上品な味、豊かな風味に、しばし、箸がとまります。

 「什錦炒麵」は、いわば五目焼きそば。
 麵は(揚げた)硬いのと、(茹でた)柔らかいのがあります。
 どっちにしようか、と迷うかみさん。
 2代目ご主人の王泰康さんに尋ねたら
 「やっぱり、本格的で旨いのは、やわらかいやっちゃろね!」、と。
 茹でた麵を炒める「炒麵」の奥義は実に深い、ですから。

 「別館牡丹園」の「什錦炒麵」は、具がどっさりでたっぷり。
 むきえび、いかの薄切りなどに加えて、えびのすり身を平たく伸ばした百花餅もあり。というのに、思わずにんまり。こんなの、香港の昔ながらの料理店の「什錦炒麵」でしかお目にかかれません。
 「什錦炒麵」の味付けも、優しく、穏やかで、上品で、風味が豊か。しみじみと旨いなあと、心から思います。
 五十代、六十代と思しき上品な身なりご夫婦や、普段着でもきちんとしたひとり客のおっちゃんが、「什錦炒麵」などの麵や飯をたのんで、しっかり平らげて帰る、というのが頼もしくて、麗しい。
 もっとも、「別館牡丹園」、麵や飯だけでなく、この店には、今では香港ではなかなかお目にかかれなくなった懐かしい香港の味、香港周辺の広東地方の郷土料理が沢山あります。
 もちろん、日本では現地そのままの素材の調達は難しい。
 そこで、日本の素材に置き換えてありますが、調理、味付けの基本は、現地のそれを踏襲。
 実は「神戸元町別館牡丹園」は奥深い。そのうち、その真髄、本領を紹介するつもりです。
 そんな「別館牡丹園」の真髄をなんとか紹介したいと某料理雑誌に企画を持ち込んだところ、編集長は大乗り気。
 ところが、案内を買ってでたのが、地元、関西で活躍するフード・ライター/コーディネイター。
 その某氏、「別館牡丹園」は「焼きそばが旨いんです」ということで、編集長はそれ以外、私が薦めた広東地方の郷土料理を下敷きにした料理には出会えないまま、企画はボツになりました。
 
 地元でご活躍のフード・ライター/コーディネイター氏、「別館牡丹園」については「ご近所御用達」って認識しかなく、広東地方の郷土料理がわんさかあるってこと、ご存知なかった様子。
 おっと、いけない、いつのまにか「ヘイフンテラス」のオーラ(の泉)がこびりついちゃってるみたいで。
 え? 私の背後に、あの黒服の女史の姿が・・・ですか?

 画像は「神戸元町別館牡丹園」の「姜葱叉焼蝦仁撈麵」です。

2008/02/21

ヘイフンテラスの謎と不思議の4

 モエのロゼで唇を湿らせ、喉を潤していた我らがテーブルの前に、前菜が登場。
 焼き物2品と「くらげ」です。

 「くらげ」は厚みがあって、幅も1センチほど。切り方、つまりは「板」の仕事はざっくばらんな感じ。ですが、バリボリの触感、噛み応え。「くらげを食った!」という質感、物量感が味わえるのが嬉しい。

 「くらげ」は、その処理、下拵えだけでなく、くらげの切り方、その厚み、幅次第で、歯触り、舌触り、噛み応えなど、味わい、風味がぐんと違ってきます。
 切り幅を細くすれば、パリサクの触感が味わえる。その分、味付けも切り幅の細さに合わせ、調味、味付けが過ぎないような控えめな感じが好ましい。それが、繊細かつ洗練の美味を生み出しますから。
 
 反対に、クラゲに厚みがあれば、むしろ切り幅を広くして、バリボリの噛み応え、食べ応えのある質感、物量感が欲しいもの。なんてことで「くらげ」の味付けについては並、ってか普通でしたが、一応は「グッド!」の及第点。

 家禽の焼き物、実は楽しみでした。
 普段、前菜にとるのは牛や豚の脛肉の寄せものがほとんどです。
 ヘイフンテラスでは家禽の焼き物が食べてみたかった。
 「焼きもの専用の釜」があって、焼きものはすべて自家製、と耳にしていたからです。

 ネットで検索した某サイトにも紹介されてます。
 曰く「自家製釜で仕上る焼き物はイチオシのメニュー」ってことで、「「鳩のロースト”キンモクセイ”の香り」「釜焼きローストダック」など、多数の前菜が」ってことですから。「中でも絶品なのが「釜焼きチャーシュー」」だというし、「「本格釜焼き北京ダック」も人気」だそうで。

 ふかひれ料理の「気仙沼産」の実態、正体が把握出来て、「例湯」ありなら(って、しつこいか!)前菜に焼き物は選ばず、「「鳩のロースト”キンモクセイ”の香り」」という選択もありでした。
 しかし、鳩の素材、その正体が掴めない。「新會」か「中山」産なのか、それとも、フランス種で日本で飼育したものか、それとも、中国、欧米からの輸入の冷凍ものか。
 それについては聞きそびれました。

 「北京ダック」も選びません。
 もともと私、「北京ダック」にはそんなに執着はなし。
 広東料理店なら「ダック」、つまり「家鴨」を「鶏」に代えて釜で焼き上げ、皮の美味を味わう「片皮鶏」がいい。仔豚の丸焼きの「乳豬全體」なら文句なし。
 それにテーブルを囲んでいた人数のこともあって、その日、「北京ダック」はハナっから無視。そんなわけで「北京ダック」の素材の「家鴨」について聞きそびれました。むろん、日本産の「合鴨」使ってるとは思いませんが。

 さて、焼き物2品。
 そのうち1品、焦げ茶色の焼き色の焼き色、肉の色あいから、てっきり「焼鵞?」。しかも「梅醬」まで添えられてましたから、そう思いこんだりして。

 焦げ茶の皮の焼き色は、濃い。けど、なんだか、照りに深みがない。もしかして、焼き上げたばかりじゃなく、昨日、焼いて、キッチンにぶら下がっていたものをリヒートしたのかも。

 甘い梅醬をつけ、口に運ぶと、皮はパリサク、というよりもしっとり。噛み締めて歯がスっと入る、わけでもなく、皮がしっとりな分、ぐぐぐ~いと歯を押し込んで、噛み締められるといった按配。その割に、肉はしっかり、ガッシリの噛み応え。とはいっても、肉汁がほとばしる、と思いきや、すんなり肉が裂け、ほぐれていく。要は、噛み応えがあっても、いささかぱさつき、乾き感あり。

 「そうか、これ「焼鴨」だったんだ!」と、気がつきました。同時に「待てよ、この味、焼き方、味付け。「梅醬」の按配といい、どっかで食べたことがある!」と、頭の隅っこに潜んでいた記憶が、もぞもぞと這い出し、甦りはじめました。
 「どこで食べたんだっけ」と、記憶を辿ってみても、即座に答えはみつからない、思い出せない。「嘉麟樓」じゃないのは間違いない。調味、焼き加減、それも火の通し、皮の張り具合、肉質が違いますから。

 そういえば「ヘイフンテラス」、総料理長、点心の師傳を香港から招聘って聞きましたが、「焼味」の職人も香港から呼び寄せたのだろうか?
(と、この点を後日、店に電話で確認したところ、香港からやってきたスタッフは、料理人二人、点心師が一人とのことでした)。

 「焼鴨」を食べていても、焼き加減、調味が香港の「焼味」の専門職のそれではないような感じ、などと「焼鴨」をもぐもぐ、心のなかではあれこれぶつぶつ。
 その疑問、答えは、やがて、友人のひとことで氷解、納得と相成りました。
 それは後ほど!

 もう一品の焼き物、浅い茶色でキャメル・カラーっていうのか、キャラメル色。けど、しっとり感はあっても、照りがない。
 「あ、そうだ、これって「鶏」だったんだ」と気づきました。
 焼き物の前菜を選ぶにあたっては「以下の中から2品お選びください」なんてメニューに記されていたはず。
 
 まず選んだのは「焼鴨」。それから、もう一品ってことになって「叉焼」はパス。
 で、選んだのは「地鶏の醬油煮込み」(だったか、日本名について記憶はさだかではありませんが、ともかく)「豉油王鶏」(だったか、中国名についての記憶はさだかではありません)。

 その鶏を食べたときの触感、舌触り、歯触り、味、風味は、今も忘れられません。
 塩蒸し焼きの「鹽焗鶏」にも似たその色合い。「鹽焗鶏」なら、皮はしっとり潤んでいながら、張りがある。
 ところが、その鶏、しっとりなのは変わらないものの、唇にふれた触感は「ヌメッ!」。
 噛み締めようとしても、歯がスッと入らずに「グニョ!」。

 肉質もしっとり。とはいっても、歯がすっと入り、歯を押し返すしなやかな弾力もない。肉汁がほとばしる、ってわけでもない。ぐちょっと、へたれな感じ。
 もっとも、押しつぶすようにぐっと噛み締めれば、確かに鶏肉、なんですが、なんだか頼りない。

 「これが、地鶏? 一体、どういう地鶏?」と、「?」マークが、いくつもいくつも頭上を飛びかったものでした。

「素材の吟味が、曖昧だなあ。調味、味付けはそれなり、なのに、素材よりも調味が目立ってるし、素材の下拵えがしっかりしてないし、調味してあっても、料理としての風味、香りがない、そう「冇香」ってやつだ!」などと、またもやもぐもぐ、ぶつぶつ。

 そんなことから 「ヘイフンテラスの焼味はもしかして日本人の料理人が担当? それらしい気配、いくらだってあるもの」などと、ますます謎と不思議の迷宮入り、ラビリンス的世界に突入していったのでありました。

 モエのロゼは、美味しいです。

 画像は(くりかえししつこいですけど)「あの~、お客様」と、ヘイフンテラスでは料理の撮影は禁止。
 ということで、探し出したのは、香港の「鏞記」の「焼鵞」と「叉焼」。

2008/02/16

ヘイフンテラスの謎と不思議の3

「前菜」、「金銀蛋上湯浸菠菜」が決まったところで、メインの料理をどうするか。

 今回、私を誘ってくれた食べ仲間の友人が目当てにしていたのは魚料理。それも、蒸し魚、ってことでした。 テーブルについて我々を最初にアテンドしてくれた白服君からメニューを手渡され、私がふかひれの料理の仔細を眺め回している間、友人がチェックしていたのは魚の料理と魚のリスト。

 友人は白服君に、魚の種類や料理方法を確認。そのやりとり、白服君の説明がなんともトンチンカンで、友人にも私にもチンプンカンプン。

 魚料理ということなら、私も異論はない。ですが、蒸し魚となると一匹丸ごと。その日、テーブルを囲んでいたのは3人でしたから、はたして小ぶりの魚の用意があるものかどうか。
 種類とサイズ、魚の大きさ次第です。
 それが心配になってふたりのやり取りの間に「あの、蒸し魚じゃなくて、煮込みなんかはどうなの?「紅炆海斑」とか「紅炆斑翅」なんか」と割り込んで入った私。

 蒸し魚でなく、煎り焼きにして煮込む「紅炆斑翅」なら、大きな魚、丸ごと一匹でなくとも可能なはず。香港の一応の料理店なら、メニューに載っけていますが、それをメニューに見つけ出せなかった。もしかして、あったのかも。

 ともあれ、そんな私の質問に「新鮮な魚ですから、蒸し魚がいいかと思います」という白服君の返事に、私は「?????」。

 確かに、獲れたての魚は、煮て食え。寝かせた魚は生で食え、などといいますから。
 つまり、獲れたての魚は、活きがいい。コリコリとした触感、爽快な鮮味を味わるものの、魚の味、旨味を味わうには、しばし寝かせたやつを生で食べるのが良い、ってことです。

 白服君の言い分は正しい。
 ですが、言下に「煮物よりも」という含みの有るような説明だったのに「ン?」。
 「煮物にする魚も、新鮮なのがいいんだけど……」と、話をするものもややこしく、面倒そうなんで、またまたぐっと我慢。
 仲間の友人も、白服君との話には、匙を投げた格好で、そのまま、魚料理の話は、要領を得ないまま、しばし頓挫。

 そこで、件の黒服の女史が登場。
 前菜、野菜料理を決めた後で、魚料理の話が復活。
 黒服の女史、魚の種類、収穫地を話してくれましたが、やはり、サイズの大きな魚しかない様子。
 改めて「紅炆斑翅」、「紅炆海斑」のことを尋ねましたが、ご存知ないのか、話が噛み合わなくって要領を得ない。

 「う~ん(大きな魚)でも、いいや、蒸し魚にしましょう!」という友人の提案で、はたの「清蒸海斑」に決定。

 前菜は家禽、野菜は煮浸し、魚は蒸し物と決まって、後は炒めものか、揚げ物、もしくは煮込みもの。そこで、素材は「えび」を選んで、炒め物か煎り焼きってことになりました。

 とはいうものの、メニューでえびの料理を探しても、なんだかいまひとつで、ピンとこない。
 「蝦仁」なんてあっても、冷凍ものを戻したむきえび、なのかな?と、不安もよぎる。
 日本の中国料理店では至極当たり前、よくあることですから。

 もちろん、冷凍の戻しでも、戻しのワザ、調理、調味の工夫次第で「これなら納得」という料理にお目にかかることもあります。が、初めての店では、疑心暗鬼でもないですが、ついつい用心深くなって、確かめることだってあります。

 出来れば「活きえび」が良い。
 才巻き、車えびなど、種類に応じて、調理、調味を考えるのは当然な話。それが「「活きえび」がございます」という黒服の女史の話。

 「どんなえびがあります? 才巻き、車なら、殻つきの煎り焼き、もし、活きの大蝦があるなら「干煎蝦碌」なんかで」、と私。

 「あのう、昨日、たくさん出てしまいましたので、ご用意できるえび、数に限りがあるかもしれませんので、今、確かめます」と、白服のアテンド君を呼び寄せ、キッチンにパシらせる黒服の女史。

 その返事を待つ間に、煲仔を一品、ということになりました。
 「嘉麟樓」に限らず、香港の広東料理店では、旬の素材の「小菜」を紹介したメニューがあって、煲仔類が紹介されてます。

 うちのかみさんがヘイフンテラスのメニューをチェックした時、見つけた広東地方の郷土料理、というのはこれだったのかと納得。
 とはいえ、グランド・メニューに並んでいるのは、季節を問わない定番的なメニューがほとんど。季節、旬の素材を使った料理は見当たらない。
 もしかして「小菜」のメニューの用意があって、そこに紹介されていたのかもしれません。

 ともあれ、グランド・メニューから「これにしませんか?」と友人が選んだのは「鹹魚鶏粒豆腐煲」。塩漬け魚の「鹹魚」、鶏の賽の目切り、豆腐を炒め、煮込んだ料理で、「鹹魚」好きな友人の好みの一品です。

 が、ちょい不安がよぎった。
 「「鹹魚」は「馬友」?それとも「曹白」なの?」と、ついつい口に出てしまった私です。
 黒服の女史、一瞬、沈黙。
 しばし間を置いて「「馬友」……だと、思いますが、キッチンに確認しておきますので」と。

 いささか気弱な返事です。
 それより、何を尋ねても、何でもかんでも、キッチンに確認します、という言葉。
 黒服の女史、毅然としている割に、その日、店にある素材、なんも把握してないんだってことに、いささかがっかり、うんざり、というよりも面倒にもなって
 「あ……いいです、いいです」と、その場つなぎにテキトーに返事してしまった私です。

 香港の一応の店なら、白服君はともかく、黒服のキャプテン以上の立場なら、海鮮はもとより、野菜にしろなんにしろ、また、特別なものにしろ、その日、入荷し、客に提供できる素材を把握しています。
 覚えきれなければ、ポケットからアンチョコをとりだし、顧客でなくてもしっかり応対。積極的に、時には執拗に売り込む、っていうのはごく当たり前、フツーのことなんですが。
 
 キッチンから舞い戻った(パシリの)白服君が手渡したメモを手に
 「中蝦、ございますので、どのように?」と黒服の女史。
 ですから、「「生抽」か「老抽」の煎り焼きか、「蒜茸焗」で」と、
 さっき話したこともすっかり忘れてしまった様子。
 いや、もしかして、「生抽」か「老抽」の煎り焼きがわからなくて、知らんふり?

 「あの、「豉汁炒」などでは如何でしょうか」と、黒服の女史。
 いきなりの提案、いきなりの展開ですが、悪くはない選択。
 「豆豉」、つまりは黒豆の醗酵味噌と香味野菜で作ったたれで炒めた料理、ってことです。

 そうです。
 友人、私、黒服の女史の会話の基本は日本語。
 ですが、料理名、料理方法、調味に関しては、テーブルの上を広東(料理用)語がびしばしと飛び交い、繰り広げられる壮絶なるバトル! でもないか!
 ともあれ、傍目で見れば「?????」なのに違いない。
 異様なる光景だったことには間違いありません。

 ということで、前菜は焼き物2品にくらげ、「豉汁炒中蝦」、「鹹魚鶏粒豆腐煲」、それから「金銀蛋上湯浸菠菜」、「清蒸紅斑」というところまで、こぎつけた。

 素材、調理、調味に重複はなし。
 とはいうものの「う~ん、なんだかもう1品」と、頭の中ではわだかまり。
 肉好きな私としては、肉の料理がないな、というのがそのひとつ。
 ま、普通の人なら「焼き物の前菜があれば、それでいいじゃん」ということでしょうが、私の素材区分、その分類では、肉と家禽は別物。
 それに、口直しの役目も果たす揚げ物がない、というのが頭の隅っこにあった。

 そもそもといえば、ふかひれの料理が正体不明の「気仙沼」ってことで、リスクを避けて踏ん切りがつかず、おまけに「例湯」がない!
 そんなことにすべては起因する。
 それに「清蒸紅斑」の大きさがわからない。
 注文しすぎて食べきれない、というのももったいない話。

 なんてことから「ま、これでいいっか!」ということで、とりあえず料理の注文を終えたのでありました。

 「ふ~」と、思わずため息!

 画像は、「あの、お客様~」ということで、ヘイフンテラスでの料理の撮影は禁止!
 ですから、香港の「鏞記」の「干煎蝦碌」です。旨いんです、これが!

2008/02/12

ヘイフンテラスの謎と不思議の2

 ふかひれは、種類が不明だったことや、その値段からリスクを避けてあきらめらめた。といって、例湯もなし。点心をすすめられましたが、興味なし。

「なら、点心代わりに前菜からなんか選びましょう」と私を誘ってくれたテーブル仲間の提案に、焼き物2種にくらげ添え、というのを選びました。

 「湯」が決められないとなると「菜」、野菜です。
 「野菜は何があります?青菜類がいいんですが?」と私。
 「豆苗なんかないの?」と尋ねると、「あの、今の時期、ございませんので。旬でもありませんし」と、黒服の女史はきっぱり。

 「え~? 豆苗って、秋から冬にかけてのもんだし、旬には入りかけてんじゃないかな」と、言いたいところをぐっと我慢。
 三生(中国野菜を扱う業者名、です)から台湾産を入れてる店もあるけど、(ヘイフンテラスは)そうじゃないんだね、と思っても、押し黙る私。
 そうか、日本の食材から選ぶってことからすると、台湾産だと、問題ありだったのかもと、今になって思い当たる私です。

 「空心菜なんか…」と仲間が言いかけたら、すかさず「今の時期、ございませんので」と、またもや黒服女史はきっぱり。
 「なの、わかっております」と、言いたいのをぐっと我慢。

 「あの「菠菜」ならご用意できますが、いかかでしょう?そこに紹介されてます「金銀蛋上湯浸」などで」と、メニューを指差す黒服女史。

 「ほうれん草」ではなく「菠菜」と口にし、「金銀蛋上湯浸」を薦めてくれたのに、一挙に盛り上がりました。「これよさげだね」と仲間と目星をつけていた一品です。勝ち誇ったような黒服女史の笑顔も忘れられません。
 
 料理を決める際、香港あたりでは最初に「湯(スープ)」、それから「野菜」の有無、種類を尋ね、調理方法、味付けを考えて注文、というのは至極当たり前。
 日本の中国料理店でも、野菜の有無、種類などを尋ねてみれば、店の、料理人の、素材への探究心、料理にかける熱意、意欲、意気込み、知識や度量がわかります。

 それに、野菜、ことに青菜の炒めものは、店の料理の良し悪し、料理人の技量を知るには格好なもの。

 素材の種類、選別、切り分けの処理、素材の持ち味、クセ、状態に応じた調味、香味野菜、調味料の使い分けなどの下拵え、といった「板」のワザ。

 油脂を媒介に野菜に火を通し、最後の仕上げに煮含めるだしの分量など、調味の加減、按配、調理する鍋の火の扱いの「火路」。それが生み出す「鍋」の「気」の「鑊気」をどれだけ生かすか、という「鍋」のワザ。

 いずれにしろ、料理人の技量、センスが明らかになる料理のひとつです。

 ふかひれをあきらめ、「例湯」はなしと知って、いささか意気消沈。野菜のやりとりにうんざりしはじめて、内心「青菜の炒めものは危ういかも…」と、疑心暗鬼状態。
 というところに「金銀蛋上湯浸菠菜」という提案。「皮蛋」と「鹹蛋」入りのほうれん草の上湯の煮浸し、です。
 救いの神が現れた。一条の光、明るい希望と明日が見えはじめた。

 「危ういかもしれない!」という青菜炒めへの不安を解消してくれるかもしれないばかりか、そのチョイスは無難な安全策、かも!」と思い始めた。
 それに「上湯」の質、レベルがわかる。煮浸しではあるけれどスープあり、ってことからすれば「湯(スープ)」代わりにもなりそうだ。でも、ないか。

 ともあれ、前菜に続いて「金銀蛋上湯浸菠菜」が決定。

 画像は、「あの、お客様~」ということで禁止ですから、今回もなし。
 というわけにもいきませんから、別の店の「金銀蛋上湯浸菠菜」です。

ヘイフンテラスの謎と不思議の1

 「ヘイフンテラスの予約が取れたんですが、ご都合よけりゃ、ご一緒に!」と誘いを受けたのは昨年の11月。 そうです、もう4ヶ月も前、旧聞に属する話。

 お誘いを受けて出かけました。で、その結果、すぐここにアップ、というつもりが、なんだかノリ切れない。煮え切らないまま、頭の隅っこでなんだかわだかまり。ってのも体にはよくない、ってことでUPした次第。

 昨年、丸の内にザ・ペニンシュラが誕生して以来、ヘイフンテラスは気になっていた中国料理店。とはいえ、訪れる機会がなかった。予約をとるのが至難の業、なんてことも聞いてました。

 それからしばらく、dancyuの小山薫堂さんのコラムで「今、東京で最も注目すべき料理店」なんて記事を見かけたり、駅ビルにある本屋で立ち読みしたグルメガイド本、執筆はたしか森脇慶子さんだったと思いますけど、中国料理では08年、その動向が注目される店、とかなんとかを見つけて「そうなんだ!」。

 私よりも、ウチのかみさんのほうが積極的。中国語講座仲間のあぐりさんとザ・ペニンシュラに出かけ、しっかり「ヘイフンテラス」のメニューをチェック。日本の中国料理店ではおめにかかれなさそうな、広東地方の郷土料理もあり、ってことで、結構、私もその気になりはじめてました。

 誘いを受けたのは11月のある日のランチ・タイム。
 最近の事情は知りませんが、あの頃、昨年の11月ですけど、昼も夜も予約は満杯、という状態、だったそうで。

 もっとも、ランチ・タイムでも、私は飲茶の点心やランチのコースには興味なし。
 というのも、飲茶の点心は、小さい分、味がしっかり、濃いのが普通。いくつも食べられない。

 かつて香港で、飲茶の点心の歴史のフィールドワークを実施した時には、朝も昼も、あちこちの飲茶に出かけ、かみさんがうんざりするほどの点心をテーブルに所狭しと並べたものです。が、最近は、飲茶にでかけても、前菜代わりに点心、2~3品、あとは、野菜、小菜という香港スタイル。

 それに、ランチ・コースってのは、その店のお勧めの料理を集大成、と言う魅力がある反面、メニュー構成や料理内容はありきたりだったり、その店の経営方針にもとずく経済性がそこに介在。
 夜のディナーのセット、コースとは食事、内容が異なる、という現実があったりするのを見逃せませんから。

 そいえば、ネットの食批評で目立って多いのがランチでの体験話ですが、多くの場合、ランチのセットやコースとディナーのそれを同じに捉えるのは考えもの。別物って捉えた方がいいでしょう。
 むろん、ランチ・タイムでもディナー同様の料理内容、ポーションで供する店もある。むしろ、店の真価を確かめ、味わい、楽しむには、アラカルトから選ぶの理想的で格好だし、うってつけ。
 「ヘイフンテラス」にはアラカルトがありました。

 ともあれ、私は「飯」が食べたかった。「飯」にうってつけな旬の素材、日常素材を使った「小菜」が食いたい。というのも、伝え聞いていた「ヘイフンテラス」、香港のザ・ペニンシュラの「嘉麟樓」と同じ料理、同じ味を提供、ってのが売り文句、看板、でしたから。

 86年、ペニンシュラのリノベショーションで誕生した「嘉麟樓」で、話題になったのが、斬新で画期的な点心の数々。ふかひれの料理。広東地方の伝統料理を下敷きにした「小菜」の数々。ことに、煲仔の類の充実は、大きな話題になったほど。そう、XO醬もありました。

 丸の内、ザ・ペニンシュラのヘイフンテラスの席に案内され、手渡されたメニューで、最初に探したのは、ふかひれの料理。
 というのも、香港で広東料理を看板する店なら、ふかひれの料理こそが勝負のしどころ。 初めての中国料理店で、要チェックなのは、やはり、ふかひれの料理の数々。
 ふかひれの吟味、種類、その戻し方、調理で、その技術がわかります。 そのだし、上湯を味わえば、その店の経営、調理の基本方針がわかりますから。

 それが「ヘイフンテラス」のふかひれの料理の一覧を目にして、思わず「ン!?」。
 その最上段、1番目、2番目にあったのは「気仙沼」のふかひれ云々といった表記。
 正確にそれをここで紹介できないのは、メモ、写真(撮影禁止です、ヘンフンテラスでは!)も忘れたからですが、ともあれ、気仙沼で水揚げされた極上だか、特上だかのふかひれを使った醬油煮込みなど、ふかひれの料理が紹介されてました。

 「この「気仙沼」って、ことは、このふかひれ、「よしきり/牙揀翅」か「もうか/摩加翅」なの?」と白服の人に尋ねても「は?」と、返事はおぼつかない。
 そこに現れたの黒服の女性も、「ええ、あの、キッチンに尋ねてまいりましょうか?」と、要領を得ない。
 間が持てなくなった私、「あの「海虎翅」とか「金山翅」ね。それに「裙翅」のふかひれの料理はないんですか?」と尋ねても、返事をはぐらかされて、要領を得ない。

 香港のザ・ペニンシュラの「嘉麟樓」にでかけたことがある方なら、メニューのふかひれ料理のところに「裙翅」はじめ、ふかひれのなかでも上質で翅絲の太いふかひれを使った料理がずらり、なのはご記憶のはず。

 そういえば、「嘉麟樓」のふかひれの料理でも「干撈蟹柑魚翅」は話題を呼びました。
 上湯で和えたふかひれとは別に上湯を用意した「高湯魚翅」をもとに生まれたバリエーションで、上湯で和えたふかひれに蟹肉を配した「干撈蟹肉魚翅」をさらに変化させ、蟹肉を蟹の爪に変えたもの。それもメニューに見当たらない。
 ま、遠い昔の料理ですから、メニューから消えて当然ですけど。

 それより「嘉麟樓」に限らず、香港のホテル内のレストランはもとより、海鮮料理を看板にする一応の店では、「金山翅」、ことに「海虎翅」を「生翅」とし、あるいは「裙翅」を看板にしているのがほとんどです。
 「よしきり/牙揀翅」か「もうか/摩加翅」による「紅焼」や「清湯」のふかひれ料理は滅多にみかけない。あるとして、「包翅」として、だしに工夫を凝らし、ふかひれの煮込み鍋に使われるているのがせいぜいです。

 その理由は、以前にもふれてきた通り、「よしきり/牙揀翅」、「もうか/摩加翅」には独特のクセ、匂いがあって、香港の広東料理式のふかひれ料理、ことに「紅焼」や「清湯」にはいささか不向き、というのは地元の料理人の多くが認めるところ。
 そのクセ、匂いをいかになくして、様々な料理に活用、というのが現実、ってことですから。

 「あの「よしきり」や「もうか」でもいいんですが、ここでふかひれの原ヒレ戻して、調理してるんでしょうか?」と尋ねてみても、黒服の女性の返事は要領を得ない。

 ふかひれの料理を食べたいと思ってましたが、あきらめました。なんといっても、気仙沼のふかひれを使った醬油煮込みの値段は1万5千800円。試すにはリスクがありすぎる、と考えて当然でしょう。

 なら、スープを何か、ということで「例湯(本日のスープってとこです)は何ですか?」と尋ねたら、「「例湯」のご用意はございません」」と、黒服の女性はきっぱり。
 「をいをい!嘉麟樓なら、顧客用に例湯を用意することもあるんだけど」と、言いたいところをぐっと我慢。 なんせ、私、丸の内のザ・ペニンシュラのヘイフンテラスに出かけるのは初めてのこと。顧客なんかじゃありませんから!

 「なら、お勧めのスープは?」と尋ねたら、「瑶柱羹」やら「西湖牛肉羹」などがずらりと並べたてられた。ほとんどがメニューに並んでいるスープばかり。
 「あのう、今日は宴会じゃないんで!」と、さらに言いたいのをぐっと我慢。

 ちなみに、グーグルで「ヘイフンテラス」を検索すると、そのトップには「ザ・ペニンシュラ香港の広東料理レストラン「スプリングムーン」と同じ味をお楽しみいただけるヘイフンテラスは一皿ごとにお客様を魅了することでしょう。」なんて、一文が。

 そう、以前はそれをクリックすると、ヘイフンテラスの紹介サイトに飛んで、同じ一文が。 ところが、いつのまにか、その紹介、変わっってました。
 あれは「白い恋人」?、それとも「赤福」に「お福餅」? それとも「船場吉兆」の一件があってからかな。あ、関係ないことかもしれません。

 もうひとつ、グーグルすれば登場するヘイフンテラスの紹介に、「「ザ・ペニンシュラ香港」の味を再現する」、なんてのがあります。

 なんでも、「本場の味を再現するのが「ヘイフンテラス」」、だそうで、「「ザ・ペニンシュラ香港」内にある中国レストラン「スプリングムーン(麒麟楼)(*をいをい、嘉麟樓でしょ?)」の姉妹店。現地のメニューに日本の四季折々の食材を加え、コースから飲茶まで幅広く提供します」。

 それを見て、そうだったのかと、後で納得しました。
 日本の四季折々の素材、だけじゃなくて、日本の素材を使って、というのが、ザ・ペニンシュラのヘイフンテラスの料理の鍵、ポイントのひとつ、だったのですね。

 だから「気仙沼」で水揚げされたふかひれだったのか、と。 その種類、いまだ不明です。原ビレを入手して、もどして調理しているのかどうか、ってこともです。

 ヘイフンテラスでの料理撮影は、「あの、お客様~」ということで禁止です。 今回は画像なし。画像なしのコラムが続きます。

 けど、なんでdancyuの小山薫堂さんのコラムに、ポラロイドでとった写真が掲載されてるの? 
 内緒で撮ったやつ、なんですかね~ 

2008/02/09

「冬の広東地方の郷土料理」(5)


 さて、7品続いて、それで終わったわけではない。

 そう、中国料理の宴会、家族や友人と食事を一緒にする時だって、7品にはしない。それは、弔いのお供えの数ですから。それに、日頃気心の知れた、それこそ気の置けない仲間との食事ですが、一応、「宴」というともあって、縁起を担いで料理8品を基本に考えます。

 最後の締めくくりは、麵か飯。
 当夜の主宰者、メインは青木さん。ということでその内容は青木さんにおまかせというつもりでしたが、青木さん、その決定をゲストの斉藤さんにまかせました。

 斉藤さんのリクエストは「麵」。しかも、汁そば。
 「さっぱり、あっさりのがいいなあ!」、と。
 そんなことなら「上湯麵」以外にない。

 斉藤さんの言葉には大いに納得。
 というのも、今回のコース、前半のハイライトが大分、日田産の「梨子鹿」の異なる部位の料理が2品。後半のメインが「八寶鴨」。しかも、本来は8人から10人の宴会でもOK、という分量を4人でしっかり平らげたのですから。

 ということなら、「麵」でも「飯」でもなく「粉」。
 そうです「米粉(ビーフン)」の汁物ってのも、悪くはない選択。
 ですが「上湯麵」と思い浮かべた途端、すっかりその気分になりました。

  「上湯麵」は、麵の触感、味わいもさることながら、だしが決め手。具は青菜と「火腿」の細切りだけ。それが、何とも、しみじみとして味わい深い。
 といって、オヤジ、じじい好みな、いぶし銀系の滋味豊かな、っていうようなものでもない。
 なんといっても、だしに張りがありますから。
 といって、いきなりガツンときて「ンメー!」と叫んじゃうような、レトルト、インスタント食品育ちで、塩味たっぷりな味に慣れっこな、今時、アダルトグルメ系の脳天を刺激するようなものでもない。

 最初はすっきり。
 やがて、じわじわとだしの旨さが広がっていく。
 「ねえ、これ、結構、味、しっかりしてるね!」
 というように、麵を頬張り、だしを味わううちに、その美味が浮かび上がる。

 「上湯麵」の旨さ、余韻に引きずられ、食事の締めくくり、デザートのことをすっかり忘れてしまったほどでした。

 そこに、登場したのが、甘い点心。
 クスっと笑みが浮かんで、幸せな気分になりました。


2008/02/08

「冬の広東地方の郷土料理」(4)



 さて、「冬の広東地方の郷土料理」、当日のメニューは以下の通りとなりました。


①例湯(青紅蘿蔔牛尾湯、大根と人参、牛テールの煮込みスープ)

②焼雲腿炒梨子鹿片(鹿のフィレ肉、火腿の揚げ物添え)

③椒鹽焗圍蝦(殻つきえびの塩、唐辛子風味)

④紅炆梨子鹿肉双冬煲菠菜(鹿鞍下肉の煮込み、日本ほうれん草添え)

⑤豉油王百花蒸釀豆腐(えびのすり身のせ豆腐の蒸し物、たまり醬油風味)

⑥八寶鴨(八種の具材入り、家鴨の煮込み)

⑦腿茸鴿蛋扒芥胆(鳩の卵の油通しと芥胆、火腿の微塵入りとろみあんかけ)


 ①は埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんのビタミン大根と人参、それに牛のテールを煮込んだもの。ビタミン大根の滋味、人参の自然な甘さがしっかりと生きた煲湯です。
 以前、同じビタミン大根と人参に、牛の脛肉を組み合わせたスープを試したことがありますが、牛尾になると、牛の脂分も増えて味も濃厚。その人参と牛の脂の甘さもあって、本来ひつような棗は入れないでおいた、というのもうなずけます。

 ②の「梨子鹿」のフィレ。緻密で繊細な肉質、フルーティな味わいと、衣をつけて揚げた火腿のしっかりした塩味、醗酵味、旨味が織り成す美味は、見事でした。青木さんご持参のリシュブールとの相性もぴったり。

 ③は、狙いが当たって、目の前に運ばれてきた途端、蝦の殻の香ばしさが鼻腔をくすぐり、②の官能的な甘い濃密な余韻を瞬時に忘れさせる。

 殻付ききのままの蝦にむしゃぶりつくと、しっかりの塩味。同時に、ヒリっとした辛味。パリサクの殻も食べたくなる。で、殻を噛み締めると、すっと歯が入るえびの肉はレア。噛み締めると、甘味、ジューシーな味わいがほとばしる。きりりと味を引き締める、塩味、辛味との対比、バランスにうっとりとなしました。

  この手の料理には、やはり、シャンパーニュのピンク。
  実は青木さん、今回の宴の幕開けに用意してくれたのがシャンパーニューのロゼです。それをこの一皿のために残しておきましたが、大正解! 文句なしの組み合わせでした。


 そして④。「野味」を素材した広東料理の伝統的な料理手法では、もっともオーソドックスな柱候醬の味付けで、二湯で煮込んだ料理。腐乳にレモンの葉の千切りを沿えたたれも登場。先に「野味宴」でも味わってきたのと同じ料理。

 ですが、噛み締め、頬張った肉の様子からすると、「野味宴」の時の「梨仔鹿」よりも、いささか成長した仔鹿の様子。噛み締めた時の、歯が肉にはいる感触が違いました。きめ細かで繊細な柔らかい肉質ですが、味は濃密。少しばかり野味がかった印象。

 そんな「梨子鹿」の鞍下肉、なんだか、旨いラムの鞍下肉を食べたときの、触感、味、風味が思い浮かぶ。もっとも、鹿肉、ですから清廉。それにこれまで私が食べてきた蝦夷鹿の、濃密さ、コク、クセとも異なる。それでいて、腐乳のたれをつけてしっかり鹿肉としての味わいを主張。この料理にも、リシュブールはぴったり。


 それに続いたのが⑤。
 豆腐、もしくは、魚介の蒸し物か揚げ物、というリクエストに応えて登場したえびのすり身のせ豆腐の蒸し物、たまり醬油風味。 口代わり、というよりもなんだか心和む一品。結構、我家でも作ったりしますから。ですが、だしの按配、それに豆腐の蒸し加減が違いました。

 なんてことないシンプルな料理ですが、シンプルさに秘めた奥深さ、っていうのが、やはり福臨門ならではの調理と調味。


 そして「梨子鹿」の2品と並ぶ、当夜のハイライトの「八寶鴨」について、前述の通り。
 それに続いて、おまかせにした野菜。
 これがなんと、当夜のビッグ・サプライズ。予想もしてませんでした。

 素材のひとつは加藤紀行さんが栽培した芥胆。それに、なんと、鳩の卵の鴿蛋。衣をつけて油通ししたようすで、卵の表面はパリサクの状態。そこに、火腿の微塵をまぶしたくずひきのとろみ。

 鳩の卵の白身は、半透明。
 火の通った黄身は、菜の花に似た色あい。
 噛み締めると半透明の白身がぷるんと弾け、ねっとりとしてぬめりがあるコクが顔を覗かせる。
 鳩の卵は美味です。

 そして、芥胆。まだ若いせいか、芥子菜の辛味、よりも、ほろ苦さが。
 そのほろ苦さ「春遠からじ」、のあのほろ苦さ。

 画像は「椒鹽焗圍蝦(殻つきえびの塩、唐辛子風味)」と、「腿茸鴿蛋扒芥胆(鳩の卵の油通しと芥胆、火腿の微塵入りとろみあんかけ)」。

2008/02/07

恭喜發財

本日は農歴(旧暦)の1月1日、お正月です。
 昨日、我家に届いた「年糕」が旨かった。市販の「年糕」は派手に色々飾りたてられ、極彩色模様。それにくらべて「蘿蔔糕」も「芋頭糕」も、すっきりとシンプル。
 「蘿蔔糕」は、蝦米などが入って、大根のひりからの滋味が味わい深い。しっかり塩味も利いていて、素朴な味。なのに気品がある。
 「芋頭糕」は、ほくほくの芋のぬめり、粘りに「油鴨」のあのこくのある味、風味が混じって、「荔芋油鴨煲」を食べてるような感じでした。




節分、立春、除夜、春節


 3日が節分で、4日が立春。そして今夜は農歴(旧暦)の除夜で、明日が春節。
 今年も「丸かじり」の寿司を巻きました。
 去年はかみさんがパリ、フィレンツエ、ロンドンにでかけていたもので、ひとりお留守番。ですが「丸かじり」の寿司を巻きました。
 今年の節分、日曜日で、かみさんの中国語講座の日。メンバーのみんなに「丸かじり」の寿司をおすそ分け、ということになったので、寿司巻き担当の私、早くから叩き起こされ、眠くい目をこすりしばたかせながら、せっせと巻きました。一体、何本巻いたことやら。
 夜には南南東の方角に向かい、いわしを食べながら、一本丸かじり。
 昨年も書いたことですが、ここんとこ節分になれば「丸かじり寿司」は、東京はじめ、全国的に定着したそうで。
 家の前にあるセブン・イレブンではかなり前から太巻きの予約を受け付け。
 夜になってミネラル・ウォーターを買いにでかけた近所のスーパーでは、すでに「丸かじり」の太巻きが30%オフ!しかし、陳列されたパック入りの太巻きを見てびっくり。
 具がびっしりの太巻きはともかく、海鮮太巻きはじめ、各種のヴァリエーションあり、でしたから。
 大阪あたりで長年「丸かじり」の風習を守ってきた人なら「丸かじり」の太巻きの具は、精進物が普通のはず。唯一、精進を外れる具は卵焼き。
 と思ってたら、ちょっとヒットしたブログ、なんでも大阪のフードライターと思しき女史、海鮮巻きの「丸かじり」を食べたことを記してあったのに、思わず「をいをい!」。
 生の胡瓜を入れたり、アボガド入れたりなんて、まるでカリフォルニア式の節分の丸かじり太巻き。
 今年も節分前に、伊勢の木野本海苔店に答志島産の新海苔の「乾海苔」を注文。
 「今年、収穫した海苔なんですが、いつもに比べて……」と、木野本健造さん。
 ですが、到着した海苔をつまんでみると、関西人には懐かしい伊勢の海苔。
 浅草、有明などの「女海苔」とは違って、しっかりと頑丈な「男海苔」。
 噛み締めれば、味も風味も豊かです。
 そう、我家の「丸かじり」の太巻きに、答志島の海苔は欠かせない。

 そして、立春を迎え、本日は農歴(旧暦)の大晦日の除夜の日。
 嬉しいことに、春節に欠かせない「年糕」が届きました。
 ひとつは大根餅の「蘿蔔糕」。もうひとつはタロ芋で作った「芋頭糕」。
 その見映え、シンプルでエレガント。
 真心のこもった「年糕」だったのに、思わずうっとり。
 普通「年糕」は、煎り焼きにしたりしますが、優しく蒸して食べたくなりました。




2008/02/05

「冬の広東地方の郷土料理」(3)


 「冬の広東地方の郷土料理」とはいうものの、香港で冬に味わえる料理の素材、日本での調達は難しい。
 そんなことからまず大分、日田産の鹿肉、それも異なる部位を素材した料理を2品。それに「八寶鴿」に代えて、銀座の福臨門でOKということになった「八寶鴨」が、今回のハイライト。
 しかし「八寶鴨」は、本来は最低でも6人、普通は8人から10人用で、プライベートな宴会でなく、本格的な宴席にも通用する料理。それらをメインに据えて、他のメニュー、コースの設定はどうするか。
  本格的な宴席、宴会料理ということであれば、やはり干貨素材を使った大菜がないと格好がつかない。干し鮑、それに近頃値段が高騰気味な魚の浮袋はさておくとして、ふかひれ、なまこ、干貝柱を素材にした料理、ってことになる。
 「そうだ!」と思いついたのが、ここんとこ「懷舊菜」、昔懐かしい料理の復活が話題の香港で、再脚光を浴びつつある昔ながらのふかひれのスープの魚翅湯。それも、鶏の細切りと煮込んだ「鶏絲魚翅湯」にするのも一興だ。
 もしくは、干し貝柱の「瑶柱」、魚の浮き袋の「花膠」の細切りに、黄韮を加えた羹仕立ての「韮黄瑶柱花膠羹」と言う選択も、案外渋い選択。それもまた香港じゃ、近頃、人気再燃の様子。
 それに旧正月、香港の春節に必ず料理店のメニュー並ぶ縁起を担いだ料理のいくつか、例えば干した牡蠣と髪菜の煮込みの「發財好市」、丸ごとの大蒜と干し貝柱の煮込み料理の「蒜子瑶柱脯」なんてのもある。大菜としてもうってつけ。
 実にディープでマニアックな伝統的な広東料理の数々、紛れもなく「本地菜」の数々です。

 が、まてよ、青木さんはともかく、そこまでディープな選択だと、他のメンバーにウけるかどうか。
 それに「八寶鴨」が今回のハイライト。
 なら、煮込み風の味付けの料理が重複しかねない、ってことから考慮の余地、必要もありだ。
 そう、コースの設定で肝心なのは、素材、味付けが重ならない。それに、味、風味、香り、触感の変化というのも重要な課題、テーマです。
 そこで思い立ったのは、この時期の旬の野菜、冬野菜。
 埼玉、東松山、加藤紀行さんの野菜です。
 冬場に入ってからの青菜、ことにひと霜が降りたあとのほうれん草が旨い。それも、在来種の日本ほうれん草。刃先がとがり気味の剣葉で、ピンク色した根っ子がほくほくとしていて旨い。特に「梨子鹿」の鞍下肉の煮込みの付け合せにはうってつけ。

 それから根菜。大根と人参がある。
 加藤さんのこの時期の大根は、大蔵、ビタミン、沖縄と3種ある。大蔵は煮込み、ビタミン大根はスープの煲湯の具材向き。人参と一緒に煮込むと実に美味。
 もっとも、大根と人参だけでは旨味が不足。ということで、牛の脛肉、筋肉、テール、もしくは、豚の脛肉、スペアリブを組み合わせるか。
 それは、福臨門にまかせて、ともかく、老火湯、煲湯を考えた。
 さらに、加藤さんが初めて試みた芥菜がいい感じに育っている。芥菜の茎、つまりは芥胆を使った料理も可能だ。

 以上のことから組み立てたコースは以下の通り。
①例湯(青紅蘿蔔湯、大根と人参の煮込みスープ)
②焼雲腿炒梨子鹿片(鹿のフィレ肉、火腿の揚げ物添え)
③椒鹽焗圍蝦(殻つきえびの塩、唐辛子風味)
④紅炆梨子鹿肉双冬煲菠菜(鹿鞍下肉の煮込み、ほうれん草添え)
⑤豆腐料理、蒸し物か煎り焼きか揚げ物
⑥八寶鴨(八種の具材いり、家鴨の煮込み)
⑦清炒芥胆菜
⑧麵/飯
 ②の焼雲腿(火腿の揚げ物)添え。先に大分、日田産の「梨子鹿」のフィレ肉をたべて、その柔らかさ、フルーティな肉質、持ち味から、もしかしてこれは塩味がしっかりで、醗酵味、旨味のある焼雲腿(火腿の揚げ物)を添えて、鹿肉と一緒に食べ合わせると、グッドかも、という発想から。後で知ったことですが、福臨門の冬のコース料理の一品に組み入れられてました。
 ③は海鮮を、ということから素材としては、えび、たいらぎ/貝柱、小魚などを考えた。で、素材をえびにして、調理方法、調味は先に「梨子鹿」の炒め物があることから、触感、味、風味を変え、「煎」、「炸/油浸」、もしくは「蒸」、それに、めりはりの利いた味付けで。しかも、中えび、小えびの殻付きなら一層、風味が増す。
 ②の味、風味の余韻を楽しみながら、ガラリと味、風味の変化を楽しむにはうってつけ。素材のえびへの親しみ、なじみやすさも効果的。おまけに、続いて「梨子鹿」のしっかりした煮込みが登場。といったことから「椒鹽焗」、塩、生唐辛子風味の揚げ物で。
 そして、煮込みの料理の「紅炆梨子鹿肉双冬煲」で、「梨子鹿」の旨さ、伝統的な手法による調理、味付けをしっかり味わった後で、⑤はいわば口直し。それには「豆腐」か、②同様に素材、調理、味付けの海鮮の魚介も良い。
 が、続いて、煮込みのしっかり味の「八寶鴨」が登場。しかも、ヴォリュームたっぷり。ってことからすると、やはり豆腐。蒸し物か、煎り焼きってことで、料理内容は総料理長におまかせ。
 それから野菜。
 締めくくりは、麵か飯。
 画像は、②の「焼雲腿炒梨子鹿片」。
 柔らかくてクセがなく、淡白でフルーティーな味わいの「梨子鹿」のフィレ。「火腿」の極上の部位に衣をつけて揚げた「焼雲腿」の組み合わせは、絶妙でした。
 仔鳩肉に「焼雲腿」を組み合わせた陸羽茶室の「焼雲腿鴿片」を思い出したりしました。
 しかし、大分、日田市産の「梨子鹿」のフィレの肉質は、仔鳩よりも緻密で繊細でした。

2008/02/04

「冬の広東地方の郷土料理」(2)


 それにしても「八寶鴨」、その量はたっぷり。
 鳩にふかひれを詰めて鮑汁で煮込んだ「仙鶴神針」を「あの量では、食べ足りない!」と言ってた青木さんも、さすがに4人で分けた「八寶鴨」の分量には驚いた様子。本来は6~8人用で、宴会料理の一品として登場する料理ですから。

 実は今回、当初、6人が参加、という話もあった。そんなことも「八寶鴿」を「八寶鴨」に変更した理由のひとつ。それ以前に、「八寶鴿」もさることながら、なんとかして日本で「八寶鴨」を食べられないものか、とはかねてからの念願、懸案事項としてその実現を銀座の福臨門にリクエスト。

 ところが「八寶鴨」を実現するのにふさわしい「家鴨」が日本では見つからない、見つけ難い、というのが最大の課題、テーマでした。
 「え? 家鴨って、日本にもあるでしょうが? だって、北京ダックってそうでしょ?」と「八寶鴨」にふさわしい「家鴨」を探し始めた私に、親切に教えてくれた人もいます。
 「ン!?、いや、あの~、探してるのは北京ダックや焼鴨、ほら、ロースト・ダックね、そいうのに使われてる「家鴨」じゃなくて、それよりも若くて、身が柔らかくって、肉質も濃くなくて、淡白なやつ。言ってみれば、ひな鴨ってとこかな。
 あ、そうだ、以前は、中国本土から北京ダック用の家鴨が輸入されてたんだけど、日本への輸入禁止品目になったり、その後、例のSARSの一件もあって、日本にはこなくなっちゃったみたい。最近はどうなんだろ?って、知らないんだけど。一羽丸ごとの冷凍物、ね。それ以前には、北京ダックだけじゃなくて、「樟茶鴨」、スモーク・ダックね、製品化されたのが日本にも来てたんだけど、硝石かなんか使ってるらしくて、肉の色が濃いの。味もそこそこでね」と、訳知り顔、知ったかぶりで話す私です。

 なんて書きながら、はて、誰もが好きな北京ダック、ですけど、今、日本の中国料理店で供されてる北京ダック、その素材の実態と実状、現状をつゆも知らない、ってことに愕然。こいつは調査の必要、ありですね。そ、冷凍の「餃子」の一件もあったことだし。
 もともと私自身、北京ダックにはさほど執着はない。食べるとしたら新宿の全聚徳にでかけるぐらいのもの。胸下のみぞおちの皮だけの部分を砂糖で食べる全聚徳の北京ダックの美味はたまらない。そんな全聚徳の北京ダックの「家鴨」は、北京ダックのためにだけに飼育されたもの、だったはず。(今度行ったら、再確認しておきます)。
 つまり、中国料理の「家鴨」、料理方法によって使いわける、というのが中国本土や香港では一般的。しかも、北方と南方では品種、飼育環境から、その差あり、ってことらしい。
 ところが、日本では「家鴨」そのものの需要が少なく、一般には広く流通はしていない、というのが現状、だそうで。ということから中国産の輸入が途絶えて以後、盛んに輸入されるようになったのが、台湾産のそれ。しかも、北京ダックだけでなく「焼鴨」の素材にしている店もあるようです。
 それ以外は、日本で一般に「鴨」として流通している「合鴨」で代用、という店も少なくない。それも、代用ってことじゃなく「家鴨」そのものへの認識の低さ、馴染みのなさから「家鴨」として調理という料理人も少なくないようです。私の知り合いの料理人もいましたから。
 
 ところが、日本で流通している「鴨」こと「合鴨」というのは、北京ダックには不向き、のはずなのですが、素材の持ち味、資質にはこだわらず、調理、調味で勝負、というのがほとんどの日本の中国料理店、料理人は、そんなことはおかまいなし、のようです。
 もちろん、素材の吟味にうるさい料理人もいて、そういう人たちは、台湾産、あるいは、イギリス、フランス、カナダなど、海外で飼育されている「家鴨」を使用。ところが、、欧米の「家鴨」の大半は、「北京ダック」、「焼鴨」のために飼育されている中国、台湾産のものに比べ、「鴨」に近く、肉質がしっかりで、味も濃い。
 
 そう、中国、香港、台湾の「家鴨」は、肉質はしっかりでも、味はいささか淡白。ともあれ、欧米の「家鴨」の資質、持ち味を見計らって、調理、味付けを施す、ってことになる。日本にもいます、そんな姿勢を貫く意欲あふれる料理人が。頼もしい限りです。

 話戻って、銀座・福臨門、青木さん主宰の「冬の広東地方の郷土料理」に登場した「八寶鴨」。それにふさわしい素材が見つかった、という話を聞いてみると、これがなんとフランス産の「家鴨」。それも小ぶりの物でした。どうやら、バリバリー種のものらしい。

 それを物語るように、調理、味付けは広東料理の「八寶鴨」を踏襲。しかし、肉質がしっかりで、味が濃い。その按配をしっかり見計らい、資質に合わせて、しっかりした味付け。それでいて、上品で洗練されている。
 かつて福臨門の香港島店で食べた「八寶鴨」とは「家鴨」の資質、持ち味は違いました。けど、調理、味付けは抜群、文句なし。97年のグラムノン、シラー種ですが、これが案外ぴったりでした。
 ちなみに、詰め物は、糯米、はと麦、干椎茸、蓮の実など。呉さんからその中味を聞くのを忘れてしまったので、今度、改めて尋ねておきます。
 で、画像は、切り分けた「八寶鴨」のひとり分。みなさん、しっかり平らげました。

2008/02/03

「冬の広東地方の郷土料理」(1)

 昨年の8月の「夏の広東地方の郷土料理」、11月の「秋の広東地方の郷土料理」に続いて、クリエイティヴ・プランナーでディレクター、デザイナーでもある青木保夫さん主宰の銀座・福臨門での「冬の広東地方の郷土料理」が実現。
 青木さんもさることながら、広東地方の郷土料理の取り憑かれたBMGの藤原君が、その実現になんとも熱心。今回は、藤原君の誘いで元EMIの斉藤正明さんもゲスト参加。
 その斉藤さん、東京でもコンサートでばったり、なんてこともありますが、それよりも香港や上海などで出くわして、会えば昔話に花が咲く、といった長年の知り合いです。ところが、食事を一緒するなんて機会がなくって、今回が初めてのことでした。

 さて、今回の「冬の広東地方の郷土料理」。これまで触れてきた香港の「冬の野味」をなんとか実現したかった。ですが、「蛇」、「果子狸」、「花錦鱔」、梧州産の「山瑞」、「羊腩煲」など、素材そのものが日本では調達、入手が不可能。
 梧州産の「山瑞」は日本産の「水魚」に、「羊腩煲」もマトンやラムに代えることも出来る。そういえば、この時期、フレンチ、イタリアンでは、ゲームを素材にした料理がメニューに並ぶ。そんなところから素材を調達し、広東料理の伝統的な手法、味付けで、ということも不可能ではないはず。

 とはいえ、まずは本場、広東地方で入手可能な素材に準じたものを使い、伝統的な調理方法、調味で実現、というのが東京、銀座、それに、丸の内、名古屋、大阪にある福臨門の基本方針。広東地方の素材の入手が不可能なら、出来る限り香港で使っている素材と同様、もしくは、近しいもの、なおかつ良質な素材のものを調達。しかも、調達した素材の資質、持ち味を見極め、それを最大限に生かす調理、調味を実践。
 そんな徹底的な追求の姿勢、方針の実践は、日本の中国料理店ではなかなか見られません。素材の持ち味、特質の吟味よりも、その種の素材を入手出来たことだけで、無条件にその種の素材を取り入れ、本場式、というか、広東料理の調理、味付けの手法で「らしきもの」を提供、というのがほとんどですから 。
 それが、福臨門の場合、例えば、日本で調達可能になった鳩。原種はフランス産で、日本での飼育状況、肉質、持ち味は、香港で使用しているそれとは異なる。という点を見極めて、調理。
 鳩に限らずスッポン等の類、それに、野菜などもそうです。それは、これまでにも触れてきた通り。ともあれ、あくまで素材重視。素材の持ち味、特質を見極め、それをいかに広東料理の伝統的な調理、調味で、料理を提供するか、という積極的かつ意欲的な姿勢、それこそ、私が福臨門を愛してやまない理由のひとつです。

 さて、今回、メインの料理となったのは、これまでにも紹介してきた大分、日田産の鹿肉の料理。それも、部位を使い分けた2品をメニューに組み入れました。それからもう一品、「秋の広東地方の郷土料理」のハイライトだった、鳩にふかひれを詰めて鮑汁で煮込んだ「仙鶴神針」が、再登場の預訂でした。
 というのも、「4人で一羽は食い足りない!」との青木さんの話もあったからです。確かに、「仙鶴神仙」は、昨年、私が出会った料理の中でもベスト・ワン、ナンバー・ワンの一品。もう一度味わいたい、とは思ったものの、他に鳩を素材にした料理が頭をよぎった。
 それは、鳩に糯米はじめ色々な詰め物を施して、蒸すか、煮込んで、とろみあんかけを施した「八寶鴿」。それが、銀座の福臨門でも実現可能だと知って、青木さんにもその話をもちかけた。それが、なんと、鳩ではなく、家鴨でもその料理が可能と知って、俄然、色めき立ちました。そう、「八寶鴿」じゃなくって「八寶鴨」です。
 福臨門で「八寶鴨」を食べたのは、かれこれ20年近く昔のこと、だったでしょうか。「PRIME GARDEN」誌の香港取材を手伝うことになった際、福臨門の徐維均さんに、「昔、福臨門が出張料理をやっていた頃の料理で、何か面白い物ありませんか?」とせっついて、作ってもらったのが「八寶鴨」。
 その「八寶鴨」、今でも伝統的な広東料理を看板にする店でありつけます。例えば、飲茶で有名ですが、夜の料理も見逃せない「蓮香樓」の看板メニューのひとつ。調理、味付けはいささか乱暴だったりしますが、試す価値はありますから。
 それに「懷舊菜」、昔懐かしい味、料理の再現がここ数年の最新ノトレンドのひとつである香港では、その料理を看板にしている店は他にいくつもあります。もっとも、たいていの場合、要予約、ってことですが。
 ともあれ、色々な店で「八寶鴨」を食べてきましたが、極めつけはやはり福臨門のそれ。「八寶鴨」を味わえる、というだけでも大いに盛り上がりました。
 画像はその「八寶鴨」。出来上がり。そして、切り分けた後のものです。